人生には機能+αが必要だ。手にするだけで喜びがある、日本の美意識を表現した筆記具『ZOOM韻~箸と砂紋』

「いい道具にとって機能性とは、必要条件ではあるが十分条件ではない」。株式会社トンボ鉛筆が昨年11月に発売した『ZOOM韻』シリーズの2つの新製品『箸』と『砂紋』を手にしたとき、記者はそのことを痛感させられた。どちらも「日本のかたち」をテーマにしたデザインにこだわった筆記具である。その造形や趣きに精神がインスパイアされ、筆記する際に新たな喜びと創造性を感じずにはいられない。

左側2本が『ZOOM韻 箸(はし)』。右側2本が『ZOOM韻 砂紋(さもん)』。

30年以上の歴史を持つ「ZOOM」

トンボ鉛筆が、デザインを重視した筆記具ブランド『ZOOM』をスタートさせたのは、1986年のこと。日本社会は好景気が旺盛な消費を刺激した時代(のちにバブル経済と呼ばれるようになった)、消費者のヨーロッパの高級ブランド志向が高まった時期だった。文具好きだった記者は、その時期、すでにペン全体から個性を発している同ブランドのシャープペンシルを購入し使っていた。書くたびに創造性が刺激された記憶があるが、今回、『ZOOM韻』の新しい水性ボールペンを手にしたとき、その感覚と連綿と続く歴史を感じずにはいられなかった。

 

昨年から『ZOOM』シリーズに加わった『ZOOM韻』シリーズは、「韻」の名の通り、余韻や風韻を感じさせることで「日本のかたち」を伝える筆記具の新ブランド。そこに2つの新製品『箸』と『砂紋』が売り出された。どちらも水性ボールペンで、金属を削り出し、表面を加工して、そのモチーフと質感から日本を表現する。

 

ペン先から尾端に向かって四角から丸く、細く・・・『ZOOM韻 箸』

『ZOOM韻 箸』。この和食器の御膳に備えられたような佇まいはどうだろう。思わず背筋を伸ばして、両手で手に取りたくなるデザインである。ペン軸中央には、箸帯のごとき金箔があしらわれ、筆記を始めるには、まずキャップを回すことから始めなければならない。こうした様式美こそが「日本のかたち」であり、美意識という精神性を表現しているのだろう。文字を書くたびに、清らかな心で紙に向かいたくさせられるボールペンである。

『ZOOM韻 箸』は、アルミを削り出したボディに、漆黒(しっこく)調の塗装を施し、そこに箸帯のような金箔が貼られている。

遠目に見ると、ペン軸が尾端に向かって滑らかに細くなり、しかもその形状が四角から円形に変化する。その姿は、本当に高級な漆塗りの“箸”を連想させる。削り出しの加工技術にも、日本の職人気質を感じずにはいられない。

ラインナップは、金箔が施された「黄金(こがね)」と、プラチナ箔が施された「白金(しろかね)」の2種類。

はずしたキャップをペンの尾端に差したときに、バランスのいい低重心になるところまで考えられているうえ、その重量感の良さは、さすがにトンボ鉛筆である。この点については、記者は今まで、何度か当サイトでも紹介している。同社のペンの低重心は、筆記する際に非常にバランスがいいのである。

クリップ部分は、扇を閉じたときの末広がりのフォルムをしているこだわり。さっそくキャップを静かに回し、筆記を開始すると、高級筆記具ならではの高揚感で、いやがうえにも、いつもとは違った心持ちで文字を書きたくなってしまう。何か、筆と墨で書をしたためるような、背筋を伸ばした感覚にさせられる筆記具なのである。

アルミの削り出しに枯山水を想う・・・『ZOOM韻 砂紋』

『ZOOM韻』シリーズ、もう1つの新製品『ZOOM韻 砂紋』。モチーフは日本庭園の様式である「枯山水」だ。そう、京都・龍安寺や大徳寺などの庭園で有名な、石と砂だけで大自然の風景を表現する庭園をモチーフにしているのだ。

ペン軸はアルミの削り出し。ペン軸には、枯山水の砂紋に見立てた文様が精巧に削り出され、そこに日本の伝統色を用いたアルマイト仕上げが施されている。

ラインナップは、銀のような明るい「白鼠(しろねず)」と、藍みをおびたネズミ色の「藍鼠(あいねず)」。どちらも江戸時代から日本に伝わる色彩名だが、「藍鼠」のペン軸の色は、記者には、金沢あたりの日本家屋の瓦屋根を想起させる色合いに感じられる。

ペンの尾端が裾広がりの形状になっているため、このペンはしっかりと自立することができ、幾何学模様の佇まいと相俟って、凜とした印象を持つ者に与える。

尾端が広がっているため、キャップを尾端に被せることができないので、キャップは尾端に刻まれた円形の溝に差し込むという特異な形状となっている。

削り出しで刻まれただけあって、文様のエッジが気持ちよく立っていて、そこに指をかけて筆記するときのペンが指にしっかりと絡む感触は、他には代えがたいものがある。

2018国際デザイン賞を受賞!

この2つの『ZOOM韻』は、ドイツのデザインセンターが主催する「reddot design award 2018(レッドドット・デザイン賞)」を受賞した。この賞は、2年以内に商品化された製品を、革新性、機能性、人間工学、エコロジーなどの基準で審査し、受賞作品を決定する国際的なデザイン賞。日本固有の造形と感性をテーマにした製品が国際デザイン賞を受賞したという事実に、突き抜けるジャパンパワーを感じる。

日本のメーカーが、日本の伝統の感性をモチーフにした造形でデザイン賞を受賞することには、グローバル化時代の今だからこそ、意義があり、さらに、それを所持し使用するモチベーションにもつながるものだと感じられる。

 

大人の知性と個性を大事にし、「書く」ことにこだわりたい方に、ぜひ手にして欲しい1本。価格は、水性ボールペン『ZOOM韻 箸』税別15,000円、『ZOOM韻 砂紋』税別10,000円である。

 

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渡辺 穣

複数の雑誌のデスク・編集長等を経てフリーライター/エディター。主にビジネス/経済系の著書・記事多数。一橋大学法学部卒。八ヶ岳山麓に移住して20年以上。趣味は、スキー、ゴルフ、ピアノ、焚き火、ドライブ。山と海と酒とモーツァルトを愛する。札幌生まれ。

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photo by 尹 哲郎/official images

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