スーツ型の作業着『ワークウェアスーツ』が好評のため個人販売開始! 商品性は悪くないがコンセプトには疑問。一体誰が買うのだろうか?
ネットを検索すると、この商品に対して賛否両論が飛び交っている。株式会社オアシススタイルウェア(東京・豊島区)が開発・販売する『ワークウェアスーツ』という商品のことだ。
同社は、もともと水道工事・メンテナンス等、住まいの水回りのメンテナンス業を営む(株)オアシスソリューションのグループ会社で、清掃・設備・建設業界へのマイナスイメージを払拭するために、「スーツを作業着にする」というコンセプトのもと開発した。それがこの『ワークウェアスーツ』なのだ。さっそく手に取り、そして試着してみた。
着心地はスウェットのよう!
試着してわかることは、ひとまずコンセプトの話は置いておいて、衣服としての機能は、なかなかすぐれており、なおかつ“意外と”着心地は悪くないということである。なぜ“意外と”なのかというと、このスーツ、見た目には、いかにも安っぽくて質が悪そうに見えるからである。しかし、着てみると、伸縮性に富むストレッチ素材を使用しており、何より動きやすい。しかも生地が軽くて、防水・撥水性があるため、手を洗ったり、食事したりするときに、汚れることを気にせずにいられる。要するに、家で普段着のスウェットの上下を着ているかのように楽な服装なのである。
軽作業なら作業着として問題なし!
パンツはウエストがゴムなので、スーツとはいえ、まさにスウェット気分。パンツの裾は体操着のように細く締まっていてホコリが裾から入ることもなく、しかも暖かい。記者個人的には、このパンツの裾に革靴の組み合わせは、すでに無理であるが。
スーツの上着の形状のジャケットは、裏地がメッシュ地で蒸れにくく、またファスナー付きの大きなポケットがふんだんに作られていて、作業に必要なツール類を収納する機能にも優れている。
さらにアウターだけでなく、上着の下に着るシャツも、これがまた着心地がいい。一見、ボタンダウンのシャツのようでもあり、ポロシャツのようでもあるが、このシャツの最大の特長は、生地がしっかりと厚手だということだろう。
アウターが胸の開いたスーツ形状であるための頼りなさを、この厚手のシャツにより補っているかのようだ。しかも上着同様、こちらにもファスナー付きのポケットもある。
つまり、このスーツと、そしてシャツを合わせることで、機能としては作業着の機能を持つように設計されているということなのだろう。もちろん、本物の作業着の方が、身体をダメージから守る機能は優れているだろうが、軽作業であることを前提に考えれば、別にこの『ワークウエアスーツ』を作業着として使っても、ほぼ問題はないだろう。
「服が変われば意識は変わる」か?
さて、この『ワークウエアスーツ』の開発の背景には、「清掃・設備・建設業界には、3K(きつい、危険、汚い)のイメージがあり、そのネガティブイメージが若者離れの原因となり、若い世代の採用に苦戦している」という業界の実情があるという。
そして、『ワークウエアスーツ』に変えれば、そうしたイメージを払拭でき、また「服が変われば意識が変わる」として、作業者の意識向上にも寄与すると謳っているのだ。
販促のビデオを観ても、この『ワークウエアスーツ』を着た途端に、作業する若者は、ヒゲを剃り、ピシッと髪も整え“好青年”に生まれ変わる。まずは、下のビデオを観てもらいたい。
いかがだろう。「そんなバカな!」と笑い飛ばす声が聞こえそうである。
この『ワークウエアスーツ』なら、仕事帰りに、そのままデートにも着て行けるみたいな状況まで描かれている。お笑いならいいが、マジにこんなことを考えているとしたら、かなり的外れな感じは否めない。
そもそも、着るものがいくら変わっても、3Kである作業内容が変わる訳ではない。しかも、そんなキツい、汚い作業をしていても、いつも清潔感があり洗濯された作業着を着ている、仕事に対して誇りと尊厳を持つ人は存在する。それが、“仕事ができる”ということであり、異性にも“モテる”ということなのだろう。いくら『ワークウエアスーツ』を着ているからとはいえ、作業着をそのままデートに着てくるような人には、所詮、デートの機会すら訪れないだろう。
それ以上に、このような見た目だけで仕事を考えていること自体、そもそも仕事に対する侮辱であり、いわゆるホワイトカラーに対する単なるコンプレックスであるように想われても仕方がないようにも思われる。
個人で、この値段の作業着を買うか?
最後に、この『ワークウエアスーツ』を個人で購入するとしたら、一体誰が着るのかを考えてみたい。
まず、普段から“本物の”スーツを着て仕事している人には全く必要はない。正反対に、“本物の”作業着を着て、がっつり重作業をしている作業員にも必要性はないだろう。また自分の仕事に誇りを持ち、さらに作業着が好きだというタイプにも、この服は必要ない。となると、この『ワークウエアスーツ』を着たいと考えるターゲット像がかなり絞られてくる。
例えば、
「本当はスーツを着てオフィスワークをしたかったのに、仕方なく、やりたくもない軽作業の仕事をやらされていて、仕事に誇りも持てず、現状に不満を持っている人」
とか、
「普段は客回りの営業職だが、営業しながら軽い作業もやり服が汚れることもあいため、あまり上質なスーツは着たくない」という人などである。
おそらく、ターゲットとしては、ネガティブな前者よりも、「作業を伴う営業職」という後者の方が有望に思えるが、そうした目的でこの『ワークウエアスーツ』購入を考えた場合、価格設定が問題になってきそうである。
この『ワークウエアスーツ』、スーツ上下セットが税別1万9800円~で、シャツは税別5000円~となっており、合計約2万5000円+税金となる。作業服を専門で売るチェーン店などで買えば、おそらく、この半額以下で、上下+シャツが揃えられるだろう。あえて、これを買うメリットをどう考えるか。そこが疑問である。
いずれにせよ、商品としては悪くないが、どうも開発コンセプトとターゲット像、価格設定がチグハグな商品であるように感じるのは記者だけだろうか。いろいろな意見が出ること自体、「話題性」と捉え、「全く話題性がないよりもいいる」とするポジティブな考え方もあるが、果たしてこの商品、今後どういう動きを見せるのか注目していたい。
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