[第2回]ラメ入りボールペンいきなり1位の『ケセラメ』 ~女子中高生の世界に筆記具の巨人が・・・~

 文房具店の筆記具コーナーをぶらぶらと見ていると、毎年、秋以降にはラメ入りのキラキラ光るインクの入ったボールペン売り場が賑わいを見せてくる。ハロウィーンにクリスマス、お正月と、グリーティングカードを描くことの多いこの時期、主に女子中高生を中心に「ラメ入りボールペン」のニーズがあるためだ。この華やかな商品たちには、どことなく数量限定販売の季節商品といった儚さをも感じるのだが、今年は少々いつもとは違う雰囲気がある。というのも、この分野に、あの“消せる巨人”が参入してきたからである。書いても消せるボールペン、パイロットの『フリクション』がキラキラのラメの世界にデビューしたのだ。

 売り場の様子を見ていると、明らかに2つの商品が客の人気を二分している。1つは、ぺんてる『ハイブリッドデュアルメタリック』、もう1つがパイロット『ケセラメ』だ。ラメボールペンの世界では先行する前者に対し、後から参入したのが後者である。後発ながら、『フリクション』の技術を応用して、インクはもちろんラメのキラキラまでも消せるという、かつてないタイプのボールペンに仕上げられた商品がパイロットの『ケセラメ』だ

販売2ヶ月で年間の1位に登場!

※約460店舗の日経独自収集店舗の2020.1~2020.12のPOSデータから、「ボールペンカテゴリ」という商品分類でデータを抽出し、さらに「ラメ」というキーワードで絞り込みをかけ、販売金額の大きい順にランキングし、参考のため平均販売価格を掲載した。

 さっそく『日経POS EYES』で検索をかけてみた結果が上のランキング表である。これは2020年1月~2020年12月までの12ヶ月間のPOSデータから、「ボールペンカテゴリ」という商品分類でデータを抽出し、「ラメ」というキーワードで絞り込みをかけ、販売金額をもとに作成したランキングトップは予想したとおりパイロットの『ケセラメ』。しかもこの商品は昨年11月2日に発売されたばかりで、わずか2ヶ月足らずの販売実績だけで、この年間の販売トップという爆発的な売れ方をしているのである。ちなみに2位と3位のぺんてるの『ハイブリッドデュアルメタリック』も、昨年9月10日出荷開始の商品なので、わずか4ヶ月弱の販売期間を考えれば、こちらもかなり人気の高い商品であることがうかがえる。

 さて、このランキングをもう少し詳しく見ていくと、1位から3位、そして10位はすべて、単価の高いセット商品である。使い方を考えれば、やはりこの商品はセットで買うものだろう。1位の『ケセラメ』は6色セット、2位、3位はそれぞれ『ハイブリッドデュアルメタリック』の14色セットと7色セット、そして10位は同じく『ハイブリッドデュアルメタリック』の6本セットである。そして4位から9位までの6本は、1位の『ケセラメ』6本セットをばら売りしたものである。

 ちなみに数値は出せないが、1位『ケセラメ』の「出現店千人当り金額※」と、2、3位『ハイブリッドデュアルメタリック』の「出現店千人当り金額」の合計は、非常に拮抗しており、4位以下とは桁違いである。これは、売り場でこれら2つの商品が人気を二分していたことを、データの上でも表している。

※「出現店千人当り金額」とは、商品が売れた店舗の来客数1000人当たりの金額で、実際に陳列された店舗での売れ行きとなるために、商品の消費者に対する魅力度の尺度となる。

ハイブリッドデュアルメタリック(左)は売り切れのため、ばらで4色しか購入できなかった。

 ここで記者は「おためし新商品ナビ」らしく、商品を購入し実際にそれぞれの商品を“おためし”することにした。ただ第1位の『ケセラメ』6本セットは無事購入できたものの、『ハイブリッドデュアルメタリック』のセット商品はすでに売り切れで購入できず、やむを得ずばら売りで4本だけ購入した(写真上)。そして実際に試し書きしてみると、この両者が持つ、全く正反対の性格がわかり、これがなかなか興味深かったのである。

書き心地にメーカーの血統を感じる

 まずは『ケセラメ』を試し書きしてみる。第一印象は「線が細い!」。0.7mmボールから紙面に描かれる線は、ノートや手帳に書くのなら決して細くはないのだろうが、グリーティングカードにイラストなどを描こうとすると、とても細く感じられるのだ。それと、記者はいつも『フリクション』に感じていることだが、インクの発色がどうしても薄い。ラメはきれいに入っていて、角度を変えてみるとキラキラと美しく、ペンの上端部の“消しゴム”を使えば、確かにラメごと全部消し去ることもできる。ただ記者には、このペンでカードに絵を描いたり、色を塗ったりする気にはなれなかった。これはあくまでもラメ入りのインクで「文字を書く」道具のように思えるのである。

ハイブリッドデュアルメタリックは、太さ1mm。絵やイラストを描きたくなる。

 一方の『ハイブリッドデュアルメタリック』はというと、1mmボールであるということもあり、たっぷりと濃いインクがペン先から流れ出してくる。色合いも濃く美しく、これならちょっとイラストを描いたり、色を塗ったりする気分になる。逆に、細かい字はこれではやや書きにくいだろう。大きな文字で、「Merry Christmas」などと書くには、ちょうどいい太さである。

 この両者の性格の差は、詰まるところそれぞれの会社が元来持つ性格そのものなのだろうと思う。パイロットは「世界に通用する万年筆を作ろうと始まった会社」であり、ぺんてるは「その社名がペインティングとパステルをつないだ造語」であるように、絵を描くマインド溢れる生い立ちを持つ。『ケセラメ』が文字の発想なのに対し、『ハイブリッドデュアルメタリック』は絵の発想を感じるのは偶然ではあるまい。

 グリーティングカードに、キラキラ文字でメッセージを書こうとする人の目には『ケセラメ』が好ましく映るだろうし、絵やイラストを中心に考えている人なら『ハイブリッドデュアルメタリック』に関心が向くはずだ。しかしこうした使い方に「消せる」ことの強みは発揮されるのだろうか。「消せる」ことは必要なのだろうか。そこには記者は少し疑問を感じてしまう。

手帳を書くには、細かく書くことができて、消すことができるケセラメがいい。

「消せる」「細い」はビジネスマンの手帳ニーズ

 ところで、パイロットの消せるボールペン『フリクション』が、日本国内だけでなく世界各国で売れていることは、おそらくすでに周知の事実と言ってもいいだろう。特に最初に発売を開始したフランスや、その他欧米各国では、小学生が学校で万年筆などのインクを使用する国が複数ある。そういう文化の中で『フリクション』が、そのニーズをしっかりと掴んだことは想像に難くない。他方、日本の学生はシャープペンと消しゴムの文化である。となると、日本での『フリクション』のターゲットは、むしろビジネスマン。しかも手帳のニーズが高いのではないかと考えられる。

 記者自身、唯一『フリクション』を使用する場面は、手帳のスケジュールの記入である。予定が変更されたり、キャンセルされたり・・・、手帳のスケジュール欄は書き直しがよくある。大きさに限りがある手帳では、スペースの関係で、書き直しの際は消したいのだ。そういう理由で『フリクション』を使うビジネスマンの友人が記者には大勢いる。

 ビジネスマンの手帳ニーズと来れば、ペンに求められる機能は「細字」が書けることである。それでなくても、日本語の文字はアルファベットに比べ、画数が多く、同じ場所を何度も行ったり来たりする複雑なものなので、ペン先には細さが求められる。それが手帳用ともなるとなおさらのこと。すでに筆記具大手では、今、ペン先の細さ競争が始まっている。『フリクション』では、大人っぽいデザインで高級感ある0.4mmボールのボールペンが売れているし、各社、0.4mm、0.38mm、0.28mmと細さと書きやすさの両立争いが熾烈になってきている。2021年のボールペン市場では、この「細さ」争いから目が離せないだろう。

ケセラメ6本セットの価格表。ケセラメは、バラで買うと1本税別230円である。

ハイブリッドデュアルメタリックの価格表。

数量限定販売なのでお求めはお早めに

 話を戻そう。ラメ入りのキラキラの世界に、殴り込みをかけた『ケセラメ』は、やはり短期間で販売ランキング1位を奪取したが、その魅力である「消せる」「細い」は、記者の目にはビジネスニーズと同一なものに映るのである。そういう視点で見たときに、この商品は、ターゲットの女子中高生たちに、あまり人気にならないで欲しいという気持ちも記者の胸の内にはあるのが正直なところだ。
 せめて学生でいられる今のうちは、もっと大らかに、太いインクでアートを楽しんで欲しい。そして、グリーティングカードは、消さなくても済むように注意深く丁寧に描く習慣を身につけて欲しい。熱で消えてしまうインクはグリーティングカードには使用しないで欲しい。人気を二分している売り場を前に、ふとそんなことを思ってしまうのである。

 『ケセラメ』も『ハイブリッドデュアルメタリック』も、どちらも数量限定販売で、時期が来ればずべて売り切れて販売は終了となる。今ならまだ買えるかもしれないし、ネット通販でも、現時点でまだ販売中である。ご興味がある方は、お祝いやプレゼント用に、もちろん自分用としてもご検討を。(写真・文 渡辺 穣)

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渡辺 穣

複数の雑誌のデスク・編集長等を経てフリーライター/エディター。主にビジネス/経済系の著書・記事多数。一橋大学法学部卒。八ヶ岳山麓に移住して20年以上。趣味は、スキー、ゴルフ、ピアノ、焚き火、ドライブ。山と海と酒とモーツァルトを愛する。札幌生まれ。

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