[第9回]伸び代大きい『マウスウォッシュ』市場で『ガム』に迫る『リステリン』!気になるのは歯周病?口臭?それとも感染症予防?
昨年初頭から続くコロナ禍により、多くの人が、一日に何度も石けんで手洗いをし、口には一日中マスクを着け、お店に入るたびに手にアルコールを吹きかけるなど、生活全般で消毒・殺菌といった衛生習慣への関心が高まっている。それに伴い、関連商品の需要も拡大しているわけだが、今回の『日経POSランキング』は、その中から「マウスウォッシュ」の世界を覗き見たいと思う。
ところで、本題に入る前に、少々ややこしい話をしなければならない。というのも、この「マウスウォッシュ」という単語には、似たような単語があれこれある上に、メーカー等により微妙に使い方が違っているからだ。例えば、商品名を見ると、「マウスウォッシュ」の他に「デンタルリンス」という言葉もよく使われている。通常、「マウスウォッシュ」は、その名の通り、「口を洗う」液体で、液体で口をすすいだ後にブラッシングを必要としないもの、一方の「デンタルリンス」は口をすすいだ後にブラッシングをするものと理解されている。そういう意味で、「マウスウォッシュ」を「洗口液」、「デジタルリンス」を「液体歯磨き」と呼ぶことは理解できるし、多くの商品ボトルにも、そう書かれている。
ところが、マウスウォッシュの草分けで『リステリン』ブランドを売るジョンソン&ジョンソン(以下J&J)は、「液体歯磨き』である『リステリン』を「マウスウォッシュ」あるいは「薬用マウスウォッシュ」と呼び、それは「デジタルリンス」とも呼ばれると、どちらの言葉も同じように捉えているように、『リステリン』のブランドサイトで説明しているし、市場調査会社によっては『マウスウォッシュ』という商品分類に「液体歯磨き」が含まれていたりもする。またそれらはさらに、「化粧品」か、「医薬部外品」かの2種類に分かれているのだが、どの商品が「化粧品」で、どの商品が「医薬部外品」なのかか認識している人は果たしてどれくらいいるのだろう。しかもそれらの商品を『日経POS EYES』の商品分類で探すとなると、大分類では、「歯磨き類」と「口中清涼剤」に分かれていて、さらに前者には「デンタルリンス」、後者には「液体口中剤」、「その他口中清涼剤」という小分類があり、そこにこれら商品が含まれている。いろいろと考えてみたが、これらを一般論で分類し記事を書いても、わかりにくいだけなので、本稿では、すべてを『マウスウォッシュ』と総称することにし、細かな使い方や機能は商品を紹介するときに個別に記したい。
「マウスウォッシュの購入率は28%。成長の余地は大きい」
前置きが長くなってしまったが、さっそく今回も『日経POS EYES』を使って「マウスウォッシュ」の販売状況を調べ、販売金額により上位15位までをランキングしたのが、下の表1である。具体的な検索方法については本文で書くと上記のようにくどくなるので、表下の注(※)にまとめて記した。
(表1)
まずこの表1には、いわゆる「マウスウォッシュ」に加え、「練り歯磨き」(以下「歯磨きペースト」)も含めていることに要注意だ。なぜあえて「歯磨きペースト」を加えたかというと、マウスウォッシュと歯磨きペーストの市場規模の違いを感じて欲しかったからだ。具体的に言うと、表1の中で、いわゆるマウスウォッシュ商品のトップは、第5位にランクされた『サンスター ガム デンタルリンス レギュラー 960ML』で、その販売金額は第1位『アース シュミテクト 歯周病ケア 99G』の販売金額の4割程度、販売個数で見ると4分の1程度でしかない。つまり、歯磨きペーストを買う人の4人に1人程度しか、マウスウォッシュは買っていないのではないかという乱暴な想像が、この表を見ただけでできるのである。そして、これがあながち乱暴な想像でもないということは、昨年11月30日付け日用品化粧品新聞の『ジョンソン・エンド・ジョンソン・感染対策セミナー』の記事中に同社広報担当が説明した「日本のマウスウォッシュ市場は2010年からおよそ1.4倍伸長したが、(中略)購入率は28%で、まだ成長の余地がある」という発言内容ともほぼ一致することでわかる。要するに何が言いたいかというと、このコロナ禍を機に、日本人はこれからもっと「マウスウォッシュ」という商品を買う可能性が高いと思われるし、その上値余地は大きいのではないかということなのだ。
日常的にマスクを着けていることで、自分自身の口臭が気になる人が増えている。また「マウスウォッシュ」が感染症予防やウイルス対策になるのではないかという期待もある。コロナ禍で、「マウスウォッシュ」は以前より注目されているのである。そこで今回は「マウスウォッシュ」にフォーカスしたのである。歯磨きペーストについては、また機会をあらためて書いてみたいと思う。
(表2)
サンスター『ガム』に急迫するJ&J『リステリン』
さて今度は、上の表2である。これは表1のデータから「練り歯磨き」のデータを取り除き、「デンタルリンス」「液体口中剤」「その他口中清涼剤」の商品分類、いわゆる「マウスウォッシュ」製品だけを比較した販売金額ランキングである。ただし、異なる3つの時期で検索し、順位だけを掲載している。表の一番左欄は2019年下半期のコロナ以前、真ん中の欄は2020年下半期のコロナ以後、そして一番右の青い部分は直近の2021年1月の順位である。
注目して欲しいのは、トップ10にランクインしているサンスター『ガム』ブランドと、J&J『リステリン』ブランドの商品数の変化である。
2019年下半期、いわゆるコロナ前の時期では、トップ10のうち7つがサンスターに対してJ&Jは1つしかない。それがコロナ後の2020年下半期になると、サンスター5つに対しJ&Jは2つ、さらに直近の今年1月になるとサンスターが5つに対しJ&Jが3つと、両者の販売実績が徐々に接近してきていることがわかるだろう。
さらに表には記してないが、このトップ10に入っているサンスター商品とJ&J商品の販売金額シェアをそれぞれ合計すると、
2019年下半期では、サンスター23.8%に対し、J&Jは3.0%
2020年下半期ではサンスター17.6%に対し、J&Jは7.2%
2021年1月では、サンスター15.9%に対し、J&Jは9.5% という結果になった。
あくまでもトップ10の商品だけの比較ではあるが、この両者の肉迫ぶりが十分に感じ取れるのではないだろうか。
消費者の関心事は、歯周病予防から殺菌効果へ!?
それでは表2の一番右の2021年1月の最新ランキングから、具体的な商品を見てみよう。先のランキングで、J&Jがサンスターに肉迫している状況はわかったが、それでもその間、つねに不動のトップに立っているのは『サンスター ガム デンタルリンス レギュラー 960ML』である。この商品は、前述の商品分類で言うと、「液体歯磨き」で「医薬部外品」なので、使い方は「口に含みよく行き渡らせた後にブラッシングし、そのあと水ですすぐ必要のない」ものである。この手の「マウスウォッシュ」には、全く同じ商品内容で、口内への刺激の少ない「ノンアルコールタイプ」も昨今では同時発売されているが、この『サンスター ガム デンタルリンス レギュラー 960ML』もご多分に漏れず、第3位の商品がそのノンアルコールタイプである。サンスターの『ガム』というブランドは、ご存じの通り『歯周病とたたかう』というコピーを前面に打ち出す、歯周病予防のオーラルケアのトータルブランドである。ボトルを見ると、「長時間殺菌」とか「殺菌持続力」というような言葉が目立つが、これはあくまでも歯周病菌に対する殺菌効果という話である。
それに対し、第2位の『J&J 薬用リステリン トータルケアプラス 液体歯磨 1L』は、虫歯、歯肉炎、口臭、着色、歯石、汚れ、ネバつきという、口の7大トラブルをトータルでケアするのが謳い文句である。しかもJ&Jは、インフルエンザ等の感染予防のために口腔ケアが重要であることの勉強会をメディア向けに開催(2020.11.18開催)したり、『リステリン』のボトルには「殺菌力」という大きな文字とマスクが描いたポップが貼るなど、昨今の殺菌・消毒という時代の気分をつかまえる販売戦略に積極的に出ているように見える。こちらも「医薬部外品」で「液体歯磨き」なので、使用方法は『ガム』と同様口をすすいだ後にブラッシングが必要なタイプである。この『J&J 薬用リステリン トータルケアプラス 液体歯磨 1L』にも、低刺激のノンアルコールタイプの『J&J 薬用リステリン トータルケアゼロプラス 液体歯磨 1L』があるが、こちらはランキング第4位で、『サンスター ガム』同様、ノンアルコールタイプよりも、アルコールが入ったタイプの方が売れているのも興味深い。
こう見てくると、歯周病予防のイメージから離れるわけにいかない『サンスター ガム』ブランドに対し、もちろん本質は口腔ケアでありながら、幅広く殺菌力が強そうなイメージ戦略を打ち出す『J&J リステリン』。この両者が、今、急迫している背景には、やはりコロナ禍という時代背景があるように思えてくる。そんな折も折、今年1月26日の日本歯科新聞には、スペイン・マドリードコンプルテンセ大学のDavid Herrera教授(歯周病学)の教授が、WEBサイトで、「歯周病がCOVID-19のリスクと関連しており、口腔衛生が感染制御に重要だ」と発信したという内容の記事が掲載された(下写真)。こうした動きもまた、「マウスウォッシュ」とコロナ予防の関連性を消費者の脳裏にイメージとして焼き付けてしまうだろう。
毎日マスクを着け、自分の息の匂いに敏感になり、感染症予防として殺菌・消毒にも敏感になった消費者の目に、今、スーパーやドラッグストアの「マウスウォッシュ」売り場に行くと、やはり目がとまるのは「殺菌」の2文字なのかもしれない。
冒頭に書いたように、日本の「マウスウォッシュ」市場はまだまだ伸び代が大きい。そうであれば、この先、この「マウスウォッシュ」の市場シェアは大きな変動があるかも知れない。この業界のPOSウォッチは、今後も注目し、変動したときには、また続編を書きたいと思う。今回はここまで。(写真・文/渡辺 穣)
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