[第21回] 「しょうゆ」の販売ランキング・トップ15。密封ボトル入りの「生しょうゆ」が浸透しつつある!種類に応じた食べ分けを!

 以前は“真っ黒”だったのに、今は“白黒半分づつ”になっているスーパーの売り場がある。まるでなぞなぞのような書き出しだが、答えは今回のテーマ「しょうゆ」の売り場だ(下写真)。いつの頃からか、「しょうゆ」売り場に、酸化を防ぐ密封ボトルが現れ、その比率が徐々に高くなって、現在では、売り場を見に行くと、約半数は白っぽい密封ボトルで占められるようになってしまった。このことは下の(表1)にもしっかり現れている。

密封容器の発明で「生しょうゆ」が主流に!

 上の(表1)は、昨年4月から今年3月までの1年間、日経が全国のスーパーから独自収集したPOSデータを、「しょうゆ」という大分類カテゴリーで検索し、その販売金額でランキング。トップ15を表にまとめたものである。

 まず気がつくことは、トップ15のうち、10商品は『キッコーマン』の商品であること。「この国最大のしょうゆメーカーは」と誰に聞いても、おそらく全員が『キッコーマン』と答えるに違いないほど、『キッコーマン』は、もはや“しょうゆの代名詞的存在”である。実際、このランキング表全体のデータを見ても、トップシェアの『キッコーマン』の販売金額シェアは50%を超えているのだ。

売り場見ると、キッコーマンの商品は他のメーカーよりバリエーションが圧倒的に多い。

 冒頭に書いた「白っぽい密封ボトル」に入った商品は、トップ15のうち7商品(1位、2位、5位、8位、10位、11位、14位)。しかも密封ボトルではないものの、第7位の『鎌田醤油 だし醤油 500ML』は白い紙パックに入っているため、これを“白”にカウントすると、白が8商品に対し黒が7商品となる。黒い売り場も、次第に白くなっているわけである。

 もともと「しょうゆ」という商品は、開封後は酸化によりどんどん劣化してしまう商品である。「たまに料理するために張り切ってしょうゆを買ったりすると、次に料理するときには、そのしょうゆの味はすっかり変わってしまい不味くて食えたものではない」なんてことは、一人暮らしをしたことのある男性なら少なからず経験があるのではないだろうか。見た目にも色が黒ずみ、思わず顔をしかめるような味になっているのだ。

しょうゆの酸化による劣化の問題に最初に対応したのが、ヤマサの『鮮度の一滴』。(ヤマサのHP内の商品情報ページより)。

 しょうゆメーカーにとっても、この酸化による劣化は大きな課題だったはずである。そして、この課題に最初に解答を出したのが、業界1位のキッコーマン株式会社(千葉県野田市)ではなく、業界第2位のヤマサ醤油株式会社(千葉県銚子市)だった。商品名は『ヤマサ 鮮度の一滴』シリーズで、2009年8月の発売だった。記者も当時、その商品をすぐに購入したが、使い勝手が悪くその後買うのを止めてしまったことをよく覚えている。フィルム素材のパウチ袋の容器だったので、中のしょうゆが減ってくると、テーブルに立てにくいのである。その後キッコーマンも同様の商品を出していたが、記者は同じ理由で興味を失っていた。それから約3年後の2012年7月、キッコーマンが現在とほぼ同じ仕組みの「やわらか密封ボトル」に入った『いつでも新鮮 しぼりたて生しょうゆ』を発売。これが起爆剤となって、次第に売り場の色が、黒から白に変わっていくのである。

 密封ボトルになったおかげで、しょうゆの鮮度を長く保てるようになっただけでなく、それまではお店での購入が難しかった「生しょうゆ(なましょうゆ)」がスーパーの店頭に普通に並ぶようになっていった。「生しょうゆ」というのは、製造過程の最後の加熱処理(火入れ)をしていないしょうゆのことで、薄く鮮やかな色合いや、繊細でまろやかな味が特長である。その生しょうゆの繊細な品質を、密封ボトルが長期間保持してくれるため、味にこだわりを持つ人たちや、少子化による少人数の世帯に、少し小ぶりの密封ボトル入りのしょうゆが売れているのは自然な流れなのだろう。そういう意味では、すべての商品が密封ボトルに移行しても不思議はないのだが、こうした新開発の容器には特許権があるためもあり、いまだに半分は従来のペットボトルに入れられ売られているのが現状である。

「だししょうゆ」の類いは、JASの分類では「しょうゆ」ではなく「しょうゆ加工品」。

濃口、薄口、減塩、だし入り等々、しょうゆにもいろいろ

 さて、ランキング表(表1)に目を戻そう。第1位は『キッコーマン いつでも新鮮 しぼりたて生しょうゆ やわらか密封ボトル 450ML』である。これはいわば現代の“しょうゆの定番商品“とも言うべき商品である。その金額シェアも、第2位以下を引き離して、断トツである。そして以下第6位までがすべて『キッコーマン』しょうゆである。3つが密封ボトルの『いつでも新鮮』ブランド、そして3つが少し大きな従来のペットボトルタイプである。第8位、第9位も『キッコーマン』で、第10位にやっと『ヤマサ 鮮度生活 丸大豆しょうゆ 特選 鮮度ボトル 600ML』という密封ボトルタイプがランクイン。これらはすべてJAS(日本農林規格)上も「しょうゆ」に間違いないのだが、第7位の『鎌田醤油 だし醤油 500ML』と第11位の『ヒガシマル 牡蠣だし醤油 400ML』は、「醤油」という名称は入っているものの、JAS上は「しょうゆ」でなく「しょうゆ加工品」と呼ばれる商品である。つまり「しょうゆ」というのは大豆、小麦、食塩だけを原料とするものだが、「しょうゆ加工品」とは、「しょうゆ」にみりんやかつおぶしや昆布のだしを加えて作られて調味料なのである。

価格が高いがランキング第7位と売れている鎌田醤油株式会社(香川県坂出市)の『だし醤油』。かつお節が香る「しょうゆ加工品」で、卵かけご飯や煮物等に重宝する。

 さらに今度はPOSデータの商品分類の視点で見ると、このランキングに使用した大分類カテゴリーの「しょうゆ」の中には、「濃口しょうゆ」「だし入りしょうゆ」「濃口しょうゆ(減塩)」「薄口しょうゆ」等、全部で7つの小分類カテゴリーが存在する。(表1)の15商品をその小分類で見ると、「濃口しょうゆ」が8商品、「だし入りしょうゆ」が2商品、「濃口しょうゆ(減塩)」が3商品、「薄口しょうゆ」が1商品、「さしみしょうゆ・たまりしょうゆ」が1種類となる(表1の色分けを参照)。「濃口しょうゆ」のランクインが多いが、これはそもそも日本のしょうゆ生産量の8割以上が「濃口しょうゆ」である(下図参照)ことを考えれば、当然のことでもある。要注意なのは、「濃口しょうゆ(減塩)」と「薄口しょうゆ」の区別に誤解が多いことである。

キッコーマンのサイトにある「しょうゆのすべて」のコーナーには、醤油に関する情報が満載で、しょうゆのことを知るためにとても役に立つ。

「薄口」は塩分が多いしょうゆ!間違えないで!

 健康意識の高まりとともに、高血圧や脳卒中等の予防のために「塩分控えめ」な食事を意識する人が増えている。そこで「しょうゆ」なのだが、日本人なら、ほぼ毎日、いや日によっては毎食摂取することもあり、塩分を気にする人には「しょうゆ」の摂取量には気をつける必要がある。そこで「濃口しょうゆ(減塩)」つまり、減塩しょうゆにするのは問題ないのだが、勘違いで「薄口しょうゆ」にする人がいるのである。これは大間違いだ。

 「減塩」と名乗る商品は、通常の商品の50%以下の塩分濃度という厚労省による定めがあるのだが、「薄口しょうゆ」という商品は、通常の「濃口しょうゆ」の色や香りを控えめにして、塩分は逆に増量した商品なのである。一般的に、「濃口しょうゆ」の塩分濃度は約16%なのに対し、「薄口しょうゆ」の塩分濃度は約18%なのだ。

 よく関西風のうどんは、昆布だしの色や香りがしっかりとアピールすると言われるが、そこには「薄口しょうゆ」が使われている。「濃口しょうゆ」の強い色と香りでは、だしの風味を消してしまうからである。そういうこともあり、しょうゆの生産地は、『キッコーマン』や『ヤマサ醤油』がある千葉県が有名だが、「薄口しょうゆ」に限れば、兵庫県たつの市に本社がある『ヒガシマル醤油株式会社』が有名である。ランキング第15位には、15商品中唯一の「薄口しょうゆ」である『ヒガシマル うすくちしょうゆ 1L』がランクインしている。

第11位の『ヒガシマル 牡蠣だし醤油』は、牡蠣のクセはほとんどなく、うま味の強い「しょうゆ加工品」。塩分も「減塩しょうゆ」ほどではないが、「25%カット」となっている。

 こうした「しょうゆ」の分類や、メーカーの特性等を意識すれば、自分に合ったしょうゆや、その使い方を考えることができるだろう。例えば、記者であれば、何かにつけたり、かけたりするしょうゆには、「濃口しょうゆ(減塩)」を使用し、調理用には主に「薄口しょうゆ」、卵かけご飯や冷や奴には、「だし入りしょうゆ」を使っている。銘柄は好みもあることなので、特に個々には言及しないが、「しょうゆ」の味は、商品により意外と差があるので、いろいろと食べ比べて、自分の好みを見つけてみるのも面白いのではないだろうか。(写真・文/渡辺 穣)

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渡辺 穣

複数の雑誌のデスク・編集長等を経てフリーライター/エディター。主にビジネス/経済系の著書・記事多数。一橋大学法学部卒。八ヶ岳山麓に移住して20年以上。趣味は、スキー、ゴルフ、ピアノ、焚き火、ドライブ。山と海と酒とモーツァルトを愛する。札幌生まれ。

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