[第26回]コロナ禍で逆境の「ペットボトル入り清涼飲料」。100年前に語られた『カルピス』の本質「健康」「安心」が、この不透明な時代に求められている!?

 昨年の年初来、人類は新しい生活スタイルを余儀なくされている。出かけるときはマスク着用、店の出入り時は消毒、できるだけ外出・外食は避けてステイホーム・・・。こうした新しい生活スタイルが、業界によって吉と出たり凶と出たりしていることを、この『日経POSランキング』のデータ検索で感じている昨今。今回のテーマは「ペットボトル入り清涼飲料」である。果たして、この今回取り上げる業界では、コロナ禍は“吉”と出たのか、“凶”と出たのか。

 さっそく今回も『日経POS情報POS EYES』を使ってデータの調査を開始だ。「飲料」という分野は非常に守備範囲が広く、それこそただの水から牛乳、紅茶やウーロン茶などのお茶もあれば、コーヒー、ココア、さらには炭酸飲料、乳酸菌飲料、清涼飲料、果汁100%飲料等々、多種多様である。最初にやることは、「ペットボトル入り清涼飲料」の範囲を定めること。今回はまず商品分類の大分類で「清涼飲料」というカテゴリーを選択。するとそこにはさらに12カテゴリーもの小分類が現れた(下の表1参照)

※表中「金額シェア」のデータは、期間:2020年4月~2021年3月、日本経済新聞社が全国のスーパーから独自に収集したPOSデータを使用。

コロナ禍で駅、オフィス街の清涼飲料の売り上げがダウン!

この12の小分類は、上の(表1)のとおり、主に「瓶入り」や「缶入り」といった容器の違いと、「果汁入り」か「無果汁」かの違いによって分類されている。その中から今回は、「清涼飲料」全体の販売金額の過半数を占める「ペットボトル入り果汁入り清涼飲料」と「ペットボトル入り無果汁清涼飲料」という上位2つの小分類を選択し、この2つの小分類を合わせた範囲を、「ペットボトル入り清涼飲料」とすることにした。おそらく誰にとっても、「ペットボトル入り」の飲料が最も日常的に馴染みがあるだろうし、その動きを追うことで清涼飲料全体の大まかな動きも見えるだろう。また環境負荷低減のため、使用済みペットボトルのリサイクルの推進が進む今、その取り組みについてのフォローもしていきたいからだ。念のために記すが、「清涼飲料」には炭酸飲料や乳酸菌飲料、お茶・コーヒーの類いは含まれていないので、勘違いなきように。それらはまた改めて別の機会に取り上げたいと思う。

ちなみに、冒頭に掲げた疑問「コロナ禍は吉か凶か?」について言えば、どうやらこの「清涼飲料」という業界の答えは「凶」だったようである。大分類の「清涼飲料」で見ても、今回選択した小分類「ペットボトル入り清涼飲料(表1の2つの小分類)」で見ても、【一昨年4月~昨年3月の1年間】に比べ【昨年4月~今年3月の1年間】の販売金額の方が、おおむね1割程度減少しているのだ(日本経済新聞社が全国のスーパーから独自に収集したPOSデータより)。この原因について、2021年3月10日付け日本経済新聞朝刊の記事には『コロナで駅や観光地の自販機経由の売り上げが落ち込んだ。在宅勤務の普及でオフィス街などを中心にコンビニエンスストア経由の販売も9%減った。一方でまとめ買いの需要が高まったスーパー経由は横ばいだった』との解説がなされている。コロナ禍は、今年もまだしばらくは収まらない様相であることを考えれば、今年も「清涼飲料」売り上げのV字回復は難しそうであるが、そんな逆境下で売れていた「ペットボトル入り清涼飲料」は何なのか、どうして売れているのか、そのあたりを探ってみた。

 

「健康」「安心」というコンセプトはこういう時代だからこそ強い!

 上の(表2)は、(表1)で示した小分類「ペットボトル入り清涼飲料」の2つのカテゴリーで、日本経済新聞社が2020年4月~2021年3月に全国のスーパーから独自に収集したデータを使用し、その販売金額によるトップ10をランキングしたものである。

 目立つのは、第1位~第3位を独占しているアサヒ飲料の『カルピス』ブランドである。第9位も『カルピス』ブランド商品なので、トップ10のうち4商品が『カルピス』ブランドということになる(下写真)。知る人も多いだろうが、『カルピス』という商品は、もともとは水で希釈して飲むタイプの濃い原液(乳酸菌飲料)だった。それが1973年にソーダで希釈した『カルピスソーダ』が発売され、1991年には水で希釈した『カルピスウォーター』が発売され、その後缶入りに加えてペットボトル入りが発売され、次第に現在のような「清涼飲料」としての商品ラインナップが出揃ったのである。

一番右がランキング第2位の『アサヒ飲料 カルピスウォーター 500ML』。第1位は、これの1.5Lボトル入りである。中央が第3位の『アサヒ飲料 濃いめのカルピス 490ML』、一番左が第9位の『アサヒ飲料 カラダカルピス 機能性表示食品 430ML』。

 この『カルピス』、誕生したのは1919年のことなので、実に100年以上の歴史を持つ。記者が子供の頃は、『カルピス』キャッチフレーズは「初恋の味」だったと、かすかな記憶がある。暑い夏の日、グラスに入れたカルピスに氷を入れ、ストローを刺してコロンコロンとかき混ぜてよく飲んだものだ。それが令和の今でも、ランキングトップ3を独占しているのは一体なぜなのだろう。そこには、きっと『カルピス』誕生の原点が関係しているのだと記者は思う。

 今でこそ、乳酸菌の健康への効果や乳酸菌等で胃腸を整える“腸活”といった意識は、常識的なことであるが、『カルピス』の生みの親である三島海雲が、その効果を身をもって体験したのは、1902年に教師として渡った中国でのことだった。そのときのことが『カルピス』のブランドサイトでは、次のように記されている。

『あるとき、仕事で北京から内モンゴルに入った海雲は、そこで「カルピス」の原点である酸乳と出会いました。当地の遊牧民たちが毎日のように飲んでいた酸っぱい乳をすすめられるまま口にしたところ、そのおいしさと健康効果に驚きを受けました。長旅ですっかり弱っていた胃腸の調子が整い、体も頭もすっきりしてきたのです。その酸っぱい乳が乳酸菌で発酵させた“酸乳”だったのです』。

 その後、帰国した三島海雲が、日本で初めて作った乳酸菌飲料が『カルピス』なのだ。海雲が語った『カルピス』の本質は、「“おいしいこと”、“滋養になること”、“安心感のあること”、“経済的であること”の4つ」だという。今風に言えば、「安くて美味しく、健康に良くて、安心感があること」。コロナ不安、経済不安が払拭できない現代社会で、人々が求めているものがすべて、この『カルピス』の本質に語られているというのが興味深い。そう考えると、健康コンシャスなこの時代、昔からの安心感のある、健康にいい乳酸菌飲料から作られる『カルピス』ブランドの清涼飲料が売れるのは当然なのかもしれない。

昨年11月「免疫機能の維持をサポート」する飲料がキリンビバレッジから登場!

 乳酸菌ということに着目して、(表2)を見直すと、第8位『サントリー ヨーグリーナ&サントリー天然水 冷凍兼用 PET 540ML』という商品のボトルにも、「乳酸菌」とか「体調管理」といった文字が躍る。幾つか抜き書きしてみると、「おいしく体調管理」、「プロテクト乳酸菌」、「この商品は乳成分を含みます」、「プロテクト乳酸菌4337L配合」「手軽な水分補給」といった具合である。ここでは、この『プロテクト乳酸菌4337L』の何たるかには触れないが、要するに消費者に対して、「手軽に水分補給して、乳酸菌を摂って、体調を管理しましょう」というメッセージで売り出したい商品だというメーカーの狙いは痛いほど伝わってくる。

健康への意識の高まりに応え、健康に対する機能を打ち出した「機能性表示食品」が登場しつつある。

 また第9位『アサヒ飲料 カラダカルピス PET 機能性表示食品 430ML』(上写真左)は、『カルピス』ブランドの中にあって「機能性表示食品」に認定されている商品である。「機能性表示食品」とは、メーカーが消費者庁長官に食品の安全性や機能性についての科学的根拠などを届け出することで、メーカー自らの責任で「機能性」を表示できる食品のこと。この第9位の商品は、「体脂肪を減らすのに役立つ」という機能がボトルに表示され、2017年4月4日から発売されている。

 さらに(表2)のトップ10にはまだランクインしていないが、第18位にキリンビバレッジ株式会社から『Kビバレッジ イミューズ ヨーグルトテイスト PET 機能性表示食品 500ML』(上写真)という商品がランクインしている。この商品は、昨年11月24日に新発売されたものなので、(表2)のデータ時点ではまだ4ヶ月ほどのデータしか反映されていない。それでも「金額シェア1.2%」まで来ていることを考えると、1年後には第5位くらいにランクインしていてもおかしくない商品である。この商品の最大の特長は、やはり「機能性表示食品」で表示されている機能が「健康な人の免疫機能の維持をサポート」というもの。その機能の主役が『プラズマ乳酸菌』という乳酸菌で、「1000億個」が配合されているらしい。コロナ禍にあって、消費者が求めているものをストレートに打ち出してきた商品だと言えそうである

『バヤリース オレンジ』はビタミンC配合にリニューアル

 

 さて本稿の最後に、今回のランキング表で気付いたことを1点指摘しておきたい。

健康意識が高まっている今、「ビタミンC」が入っているか否かでも、売り上げは変わるのかも知れない。今年に入って「ビタミンC入り」にリニューアルされた日本発売70周年の『バヤリース オレンジ』。

 第10位の『アサヒ飲料 バヤリース オレンジ 果汁20% PET 1.5L』だが、同じ商品コードの商品がなかなか見当たらないので調べてみたところ、発売元のアサヒ飲料株式会社のニュースリリースから、この第10位の商品は今年で日本発売70周年を迎え2月23日にリニューアルされている(上写真)ことがわかった。なのでリニューアル前の商品は、もう店には置いてないのかもしれない。

 そのリニューアルのポイントが『コロナ禍において健康意識が高まる人々にむけて、1日分のビタミンC入りであることを訴求していきます』というもの。やはりここでも、消費者に訴えたいのは「コロナ禍での健康意識」。ちなみにリニューアル後の新商品の方は、発売後まだ日が浅いものの、(表2)のランキングでは第116位、さらに期間を今年3月単月に限定すると第16位にランクインと、好調に滑り出しているようである。

 健康は、いつの時代でも、どんな状況下でも、人間にとって最も大切なものであることは明らかだが、「コロナ禍」は、そうした当たり前に求めるものを、より増幅し顕在化させる働きをしているようである。(写真・文/渡辺 穣)

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渡辺 穣

複数の雑誌のデスク・編集長等を経てフリーライター/エディター。主にビジネス/経済系の著書・記事多数。一橋大学法学部卒。八ヶ岳山麓に移住して20年以上。趣味は、スキー、ゴルフ、ピアノ、焚き火、ドライブ。山と海と酒とモーツァルトを愛する。札幌生まれ。

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