[第27回] 強い!エステーの『ムシューダ』『ネオパラエース』。「衣料用防虫剤」は「有臭」→「無臭」→「香り」→「天然由来成分」と進化していく!?
ゴールデンウイークも終われば、今度は「衣替えだ」、「梅雨入りだ」と、春から初夏は衣服の出し入れに忙しい時期である。そこで活躍するのが、今日のテーマ「衣料用防虫剤」だ。いつものように『日経POS情報POS EYES』を使い、商品分類で「防虫剤」という大分類のデータを見ると、数ある小分類の中で「衣料用防虫剤」は、圧倒的に大きな市場規模を持つ。というわけで、さっそく小分類「衣料用防虫剤」について調べてみよう。
頭一つ抜けている感じ!エステーのトップ3
データの期間は、昨年4月から今年3月までの12ヶ月間。日本経済新聞社が全国のスーパーから独自に収集したPOSデータから、「衣料用防虫剤」で検索し、販売金額によるランキング・トップ20をまとめたのが、下の(表1)である。
この表を見て、何より目立つのは、第1位から第6位までをエステー株式会社(東京・新宿区)の商品が独占していることである。しかも第20位までには同社製品が10品目もある。トップ20だけでなく、このデータ全体でのエステー株式会社(以下エステー)のメーカー別販売金額シェアは53%でダントツなのだが、その数字は、(表1)のトップ20を見ただけでも容易に想像できる。ちなみメーカー別のシェア第2位は白元アース株式会社(東京・台東区、以下白元アース)の19.4%。第3位以下はシェア10%にも満たない状況である。
(表1)に目を戻し、トップ20の中でエステー以外の商品を見てみると、白元アースの『白元 パラゾール ノンカット 800G』の第7位が最高位。これを含め、白元アースの商品が6品目ランクイン。そしてアース製薬株式会社(東京・千代田区)の『消臭ピレパラアース』ブランド商品と大日本除虫菊株式会社(大阪府大阪市)の『金鳥 タンスにゴンゴン』ブランドの商品が、それぞれ2品目ずつがランクインしている。
各商品の「金額シェア」を見ると、トップ3の商品(下写真)がそれぞれ約10%、3つで29%も占めている。第4位の4.1%以下に対して、この3商品だけが「頭一つ抜け出している」感がある。
また各商品の「カバー率」を見ると、どの商品も低い数字になっている。「カバー率」というのは、「商品の販売実績があった店舗の比率」のことで、それは各メーカーが各店舗の棚にどの程度陳列できたかという「営業力」を意味する。(表1)のカバー率の数字で50%を上回っている商品、つまり半数以上の店舗に陳列できている商品は、やはり「頭一つ抜け出している」トップ3の商品のみで、第4位以下の商品はすべて50%未満。第5位以下の商品に至ってはすべて30%にも届いていない状況である。
この低い「カバー率」の原因として、スーパーが「衣料用防虫剤」の主要販売チャネルでないことが関係しているのではないかと思われる。今回、この商品の販売状況を確認するために、7つのスーパー、5つのドラッグストア、4つのホームセンターを見て回ったが、どう見てもドラッグストアの売り場面積が明らかに他よりも大きく、こちらが主要チャネルだと考えられる。そしてその大きな売り場に、各社の商品が非常に豊富な品揃えで陳列されている。それに比べ、スーパーの売り場は狭い。しかも狭いためもあって、品揃えも少なく、また店によってはエステーの商品ばかりだったり、白元アースの商品が大多数だったりと偏りが大きかった(上写真参照)。
時代は「ピレスロイド系」から「天然由来成分」へ?!
今度は(表1)の色分けについて話をしよう。表の左下に記しているように、この色分けは各商品の「主成分」による分類を表している。
まず、一番数の多い「黄色」の商品。これは商品の主成分が「ピレスロイド系」化合物の商品である。記者も含め、一般の人に「ピレスロイド」だの言っても始まらないので、その説明は省略するが、この「ピレスロイド系」化合物を主成分とする「衣料用防虫剤」が、現在の主流であるということ、そしてその最大の理由が「無臭」であるということは覚えておいて欲しい。そしてその「無臭であること」を最大のセールスポイントとして、1988年に発売が開始されたのが、エステーの『ムシューダ』だった。このコンセプトとネーミングのすばらしさで、それまでは衣服に臭いが付く「有臭」の「衣料用防虫剤」だったのが、「無臭」の商品へと転換していったのである。
今では(表1)のように、トップ20のうち15品目が、この「ピレスロイド系」の衣料用防虫剤、すなわち“防虫剤自体には”匂いがしない衣料用防虫剤で占められている。「防虫剤自体には」とあえて言ったのは、昨今では、無臭が売りのピレスロイド系の「衣料用防虫剤」に、「香り」を付けた商品が数多く売られるようになったからである。例えば、エステーなら第11位、13位、16位、20位の『かおりムシューダ』ブランド(下写真)が、防虫剤自体は無臭で、そこに香りを付けた商品だし、他のメーカーからも、同じような商品はたくさん発売されている。
(表1)の色分けに戻ろう。「水色」の欄の4商品は、その主成分が「パラジクロルベンゼン」である。これは「ピレスロイド系」が出てくる前の主流だった衣料用防虫剤の成分で、独特の刺激臭を持つ。ある程度年齢のいった人たちにとっては、逆に「この匂いがしないと防虫効果があるような気がしない」と感じるほどの、衣料用防虫剤の定番成分である。衣服に匂いが付くので、着る前に風に当てて干さないといけないなどの手間が嫌われて、「ピレスロイド系」に主役の座を奪われているが、今でも、やはり「衣料用防虫剤=パラジクロルベンゼン」という人も少なからずおり、こうした商品を買っているのだろうと考えられる。
この「パラジクロルベンゼン」と肩を並べて、一時期、衣料用防虫剤の成分の主役だったのが「ナフタレン」。しかし今ではほとんど見かけることがなくなってしまった。トップ20の中にも、「ナフタレン」が主成分の商品は1つもない。しかも2015年に、「ナフタレン」は厚生労働省により「特定化学物質」と定められ、健康障害を発生させるおそれがある物質とされている。
最後に、(表1)の中にただ1つだけ「紫色」に着色された商品がある。この商品の主成分は「しょうのう(楠脳)」である。その名の通り、楠(クスノキ)のエキスから抽出され精製され作られる天然由来の成分で、かつては衣料用防虫剤のことを「しょうのう」と呼ぶくらい普及したものだった。特有の匂いがあり、それが防虫効果にもなっているのだが、今では、この第18位にランクインされた『白元 きものしょうのう 引き出し・衣装箱用 8包』(下写真)くらいしかお目にかかれなかった。
「衣料用防虫剤」の成分のことで注意が必要なのは、「ピレスロイド系」以外の成分の商品は、一緒に使用できないということ。一緒に使うと化学反応を起こして、成分が溶け、衣服を汚すことにもなりかねないからだ。その点、「ピレスロイド系」の衣料用防虫剤は、他の成分のものと一緒に使っても大丈夫で、そうした利便性も消費者に重宝がられていると思われる。とはいえ、「ピレスロイド系」化合物は、殺虫剤スプレーにも多く使用されている成分で、多用すれば人体にとって決して優しいものではない。
そこで健康に対する意識が高まっている今、メーカー各社は、より安全・安心な衣料用防虫剤ということで、「天然成分」を主成分とした防虫剤を開発・発売し始めている(下写真)。そういう意味では、今後再び、「しょうのう」にも注目が集まる可能性もあるかもしれない。
そうした天然由来成分の「衣料用防虫剤」の販売動向については、今後もフォローし、また秋以降に状況をお知らせできればと思っている。(写真・文/渡辺 穣)
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