[第30回]「チルドピザ」「冷凍ピザ」の上位20に“ハムメーカー”がズラリ! 意外な結果!“3ラウンド”のピザ食べ比べ対決!

 今回のテーマは「ピザ」である。『日経POS情報POS EYES』の商品分類では、大分類「チルド半製品」の中の小分類「チルドピザ」と、大分類「冷凍総菜」の中の小分類「冷凍ピザ」が該当する。さっそく、この「チルドピザ」「冷凍ピザ」のPOSデータを分析し、実際に商品を食べ比べしてみよう。

《内容まとめ》

・チルドピザの多くは、なぜか“ハムメーカー”が作っている。

・買いたくても、店に置いてないから買えないピザ市場。

・味とランキングはリンクするのか?ピザメーカーのピザは美味しいのか?

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9割はチルド!しかもなぜか“ハムメーカー”がずらり!

 下の(表1)と(表2)は、どちらも『日経POS情報POS EYES』を使って、2020年5月から2021年4月の1年間に日本経済新聞社が全国のスーパーから独自に収集したPOSデータを、商品分類「チルトピザ」と「冷凍ピザ」を指定し検索して得られた結果をもとに作成したものである。

 まず上の(表1)だが、これは「チルドピザ」と「冷凍ピザ」の販売金額のシェアと販売個数のシェアを表したものだ。これを見ると、市販のピザは、その大半が「チルドピザ」だということがわかる。金額ではシェア86.6%、個数では89.8%と、ほぼ9割は「チルドピザ」であることがわかるだろう。

 こうした状況は、(表2)からも読み取ることができる。こちらは同じデータから商品別に販売金額トップ20をランキングしたもので、20位までのうち青で塗られた2商品だけが「冷凍ピザ」で、残り18商品は「チルドピザ」となっている。20品中18品、つまりズバリ9割が「チルドピザ」で占められているのである。

 (表2)の商品名の冒頭に表記されているメーカー名に注目してみると、面白いことに気付かされる。18品目ある「チルドピザ」のメーカーは、すべて“ハムメーカー”で占められているのである。表中の、「日ハム」は日本ハム株式会社(大阪市北区)、「伊藤」は伊藤ハム株式会社(兵庫県西宮市)、「丸大」は丸大食品株式会社(大阪府高槻市)であることは言わずもがなであろう。この3社にプリマハム株式会社(東京・品川区)が加われば、日本の「4大ハムメーカー」勢揃いなのだが、プリマハムはピザは扱っていないようである。20位までで、ハムメーカー以外の2品は、1つは第4位の株式会社明治(東京・中央区)、もう1つは第16位のマルハニチロ株式会社(東京・江東区)の商品で、どちらも「冷凍ピザ」である。

トップ3商品。上段が第1位『日ハム 石窯工房 マルゲリータ バジルオイル10G付 189G』、下段左が第2位『伊藤 ラ・ピッツァ グランドアルトバイエルン 1枚』、下段右が第3位『日ハム マルゲリータ 185G』

 実は、記者は以前から、このことは不思議に思っていた。「なぜピザは、ハムメーカーばかりが売れているのだろう」。「ピザなのだから、ピザメーカーの商品が売れて当然なのではないのか」。「そもそもピザメーカーってものが存在しないのか」。ピザの販売ランキングの上位に“ハムメーカー”ばかりが並ぶのは、例えば、サッカーの大会をやっているのに、上位が全部野球チームで占められているような違和感を感じるのだ。

 そこでピザの製造者や販売者などで組織されている「ピザ協議会」という団体のホームページを見てみると、そこには協議会に加盟するピザの製造者10社が掲載されている。10社中、5社はすでに紹介したハムメーカー3社に、明治とマルハニチロ。残る5社は、レトルト食品等のメーカーやパン粉メーカー、そしてついに見つけたのが、ピザメーカーの2社だ。1つは株式会社デルソーレ(東京・江東区)、もう1つは株式会社トレビ(東京・品川区)である。この2社の商品を、(表2)のランキング表で探してみると、第28位にようやくトレビの商品が、第41位にデルソーレの商品が入っているのが、それぞれの最上位である。なぜ上位は“ハムメーカー”ばかりで、ピザメーカーは下位なのだろうか。この理由を求め、記者は次にスーパーに足を運んだのである。

この売り場では、珍しく伊藤ハム商品が多く、しかもトレビの商品も陳列されていた。

日本ハムと伊藤ハム以外は買いたくても買えない!

 驚いたのは、今回記者は8店のスーパーに足を運んだが、すべての店で買える「チルドピザ」は、第1位の『日ハム 石窯工房 マルゲリータ バジルオイル10G付 189G』だけだったのである。次によく見かけたのは第2位の『伊藤 ラ・ピッツァ グランドアルトバイエルン 1枚』の7店。「冷凍ピザ」に至っては、第4位の『明治 レンジピッツァ&ピッツァ 2枚 250G』しか置いてない店がほとんどだった。

 とにかく「チルドピザ」は、ほぼ日本ハムと伊藤ピザの商品しか置いてない店が多く、しかもその両社の比率は3対1くらいで日本ハムが圧倒的に多いのである。例外的だったのが、第9位の『丸大 厚切りピザトースト 4枚』で、これは商品としてはトーストの形態で、他の「チルドピザ」とは競合しないためなのか、比較的多くの店に陳列されていた。

 気になるピザメーカー2社の商品の陳列状況だが、デルソーレもトレビも陳列されていたのは2店だけで、しかも扱っているアイテム数も少なく、よくよく見ないと見落としてしまいそうな感じだった。

やっと見つけたデルソーレ(右)も、アイテムはこの1種類のみ。左は日本ハムの高級ブランド『奏(かなで)』。

 このようなわけで、売り場の状況を見るに、販売ランキング上位は日本ハムと伊藤ハムに独占されているのは、至極当然のことのように思われる。というのも買いたくても売り場に商品がないのでは、どうしようもないからだ。ちなみに、(表2)のデータで、日本ハムと伊藤ハムのメーカー別のシェアを調べてみると、日本ハムが54.2%に対し、伊藤ハムが18.0%で、記者が売り場で感じた両社の比率の3対1(上述)に奇しくも一致しているには驚かされた。

食べ比べ“3ラウンド” デルソーレは美味しいか?

 さて最後に、いつものように実際に「おためし」して気がついたことなどを記しておきたい。ちなみに記者はピザを普段から非常によく食べる。これまで日本でも海外でも数多く食べてきたし、自作のピザ用石窯で自家製のピザもよく焼いて食べた。逆にスーパーで買う「チルドピザ」や「冷凍ピザ」はほとんど食べたことがないというのが、ピザに関する記者の経歴である。

1ラウンド目は、第1位(左)vs 第2位(右)対決。これは日本ハムvs 伊藤ハムでもあり、ローマ風生地vs ナポリ風生地の対決でもある。

Round1,1位日本ハム vs 2位伊藤ハム

 まずは第1位と第2位のピザを食べてみた。ちょうど日本ハムと伊藤ハムに分かれているし、生地も薄手のローマ風の日本ハムと、もっちりナポリ風の伊藤ハムの食べ比べもできる。いつも書くことだが、本稿では基本的に「美味しい」とか「まずい」という感想は個人的な好みもあり言及しないのであしからず。

 結論から言うと、この2枚なら、第2位の『伊藤 ラ・ピッツァ グランドアルトバイエルン』を記者は選ぶ。生地の風味も、ソースの味わいも、『伊藤 ラ・ピッツァ』の方が少し上である。とはいっても、味がするとか、しないという低レベルの争いなのだが。

第2位の『伊藤 ラ・ピッツァ グランドアルトバイエルン』。

 第1位の『日ハム 石窯工房 マルゲリータ』は、生地もソースも味わいが感じられない。生地は、こうしたチルド製品のような場合、ふわふわのナポリ風の方が風味を残しやすいのかもしれないとも感じた。薄いクリスピー生地は、記者は好みではあるが、焼き加減に影響されやすいので、こうしたチルド商品としては難しいのかもしれない。

第1位の『日ハム 石窯工房 マルゲリータ』のバジルオイルは、バジルの香りがしない。

 ただ何よりも第1位の商品のマイナス点は、別袋で添付されているバジルオイルである。「エキストラバージンオイル使用」だの「パルミジャーノ・レッジャーノ入り」だの、能書きは多いが、食べてみるとまるでバジルの味や香りがしないのである。

Round2,日ハム vs デルソーレ

 次は、第1位の日ハムには再度登場願い、それに第3位の同じく日ハムの『日ハム マルゲリータ』と、20位までにはランクインしていないものの、ピザメーカー代表として、第52位の『デルソーレ デルソーレ イタリア産モッツァレラのマルゲリータ』を加えた3商品を食べ比べてみた(下写真)。

2ラウンド目は、第1位(左)vs 第3位(右)vs 第52位(中央)の対決で、日本ハムvs デルソーレの対決でもあり、ローマ風生地vs ナポリ風生地の対決でもある。

 Round1がレベルの低い争いだったことと、第1位の生地がローマ風だったことに思うところがあったので、同じ日本ハムで3位に入っている「ナポリ風生地」のマルゲリータと、ピザメーカーが作るピザを試したくなったからだ。ちなみに第52位の『デルソーレ デルソーレ イタリア産モッツァレラのマルゲリータ』は、他の2商品よりも3割ほど値段が高いので、あくまでも参考程度と考えて欲しい。

 第3位の『日ハム マルゲリータ』には、『石窯工房』というブランド名がなく、これはホームページで調べても、現在の商品ラインナップには存在しないようなので、ひょっとするとすでにリニューアルされた商品なのかもしれないが、内容的には、第1位の商品の生地を、ふっくらもっちり食感のナポリ風にしたものに思える。しかし食べてみると、こちらのバジルソースの方が少しバジルの味があり、加えてやはりナポリ風の生地の方が小麦の風味が感じられた。つまり第1位と第3位なら、第3位の商品の方が、同じ日本ハム製でもピザらしさが感じられたということである。

デルソーレの『デルソーレ イタリア産モッツァレラのマルゲリータ』。株式会社デルソーレは、1964年創業時に、日本に初めてフローズンピザを紹介した、日本のピザのパイオニアだ。

 そして比較のために登場願ったデルソーレのマルゲリータだが、これは今までの商品とは、レベルが1つ違っていた。値段の差と言われればそれまでだが、この商品だけは、しっかりとピザを食べている感覚があったのだ。パッケージを見ても、他はすべてイメージ写真をプリントしたものだが、このデルソーレの商品パッケージだけは透明で、中のピザが見えるようになっている(下写真)のも、中身に自信があるためなのかと穿ってみたくもなってしまう。

パッケージには美味しそうなイメージ写真が派手にプリントされている商品ばかりの中にあって、デルソーレの商品のパッケージ(中央下)だけは、透明で中がそのまま見えるパッケージである。

 第1位の商品と80円差なら、記者なら迷わず第52位のデルソーレを選ぶが、前述したとおり、そうはいっても「買いたくても売ってない」というのが、このチルドピザ・マーケットの現状なのである。

Round3,冷凍ピザ対決 上手な商品作りの明治!

 最後に、トップ20にランクインしている「冷凍ピザ」2商品の食べ比べだが、これはほぼ第4位の『明治 レンジピッツァ&ピッツァ 2枚 250G』の話に終始することになる。この商品はレンジで加熱して食べる商品で、小さなピザが2枚入っている。メーカーが明治だけあって、「お菓子」という先入観も多少はあるが、このピザは、料理としてのピザとしては、どうということはないが、お菓子として見れば、なかなか魅力的なのである。子供のおやつに、あるいはちょっと小腹が空いたときに、サッと“チン”していただく。ちょっと甘めのソースだが、全体としてとても美味しい「おやつ」に仕上がっているのだ。

3ラウンド目は、冷凍ピザ対決。左が第4位『明治 レンジピッツァ&ピッツァ 2枚 250G』、右が第16位『マルハニチロ ミックスピザ 3枚 306G』。見た目はそっくりだ。

 それに対し、第16位の『マルハニチロ ミックスピザ 3枚 306G』は、同じように小さなピザが3枚入っており、こちらはレンジだけでなく、オーブントースターでも作ることが出来るのだが、食べてみると、こちらはやはり料理としてのピザにこだわっている気がする。味は特筆することはない。

 この差は一体何なのだろう。厳密に考えれば、ちょっとした甘みの入れ具合、ちょっとした具の配置や見た目の違い、等々、ちょっとした印象の積み重ねなのかもしれない。それを明治は確信犯として、おそらくやっているのだろうと思うし、その同じ土俵でマルハニチロが闘っても勝ち目はないような気がする。(写真・文/渡辺 穣)

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渡辺 穣

複数の雑誌のデスク・編集長等を経てフリーライター/エディター。主にビジネス/経済系の著書・記事多数。一橋大学法学部卒。八ヶ岳山麓に移住して20年以上。趣味は、スキー、ゴルフ、ピアノ、焚き火、ドライブ。山と海と酒とモーツァルトを愛する。札幌生まれ。

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