[第36回]世界的化学メーカーと和歌山の“たわしメーカー”がしのぎを削る「台所用スポンジ」市場!格安OEMや老舗の“おさかな”も奮闘!
どのお宅の台所にも必ず置いてあるだろう「台所用スポンジ」。いったいどんなメーカーが作っているのだろうか。いつものように売り場に足を運び、『日経POS情報POS EYES』で販売状況を調べてみると、このマーケットの様々な興味深い事実を垣間見ることができた。まさに知らないこと、驚くことの連続だったのである。
《サックリとまとめると・・・》
◆ あの世界企業を抑えた、第1位は日本の化学メーカー
◆ オール和歌山なら、あの世界企業のシェアを上回る!?
◆ 個数シェアでは1,2位独占!OEM格安スポンジ
◆ おさかなスポンジのメーカーは、来年創業150年の老舗!
上位30位に19商品がランクインする、あの世界的メーカー!
さっそく下調べに、いくつかのスーパー、ドラッグストア、ホームセンターの「台所用スポンジ」の売り場を見て回ると、一見して明らかなのは、どこも『スコッチ・ブライト』というブランド商品で埋め尽くされていること。おそらく誰でも見たことがある、深い緑と黄色の2色のスポンジが貼り合わされた定番商品。今は、その定番商品以上に、ピンクや水色など、カラフルな商品が目立つ。販売データを見るまでもなく、これはシェア1位だろうと自信満々の想像ができる。
この『スコッチ・ブライト』ブランド商品のパッケージを見ると、右下に赤い見慣れた太文字で『3M』とある。あまりに有名なアメリカの世界的化学・電気素材メーカー『スリーエム社』の「台所用スポンジ」だ。販売元は同社の日本法人『スリーエム・ジャパン株式会社』(東京・品川区、以下3M)。家庭用品では、接着剤や粘着テープでもよく知られているうえ、ビジネスパーソンなら、3Mの付箋紙『ポスト・イット(Post-it)』を目にしない日はないだろう。この世界的化学素材メーカーは、「台所用スポンジ」も作っているのだ。誰もが毎日のように必ず使う物で、しかも回転率がいい。ビジネスで扱うにはいい商材である。今回『日経POS情報POS EYES』を使って作成した「スポンジ」(大分類「流し用品」の中の小分類)の販売金額ランキング(下の表1)でも、上位30商品のうち、なんと19商品が3Mの商品で占められている。もちろん、メーカー別で見てもトップシェアだ。しかし、それら3Mの商品を差し置いて、今回ランキングの第1位となった商品は、3M以外の商品なのである。売り場でも、さほど目立たなかったが、よく見るとスポンジがお化けのような形で、顔まであってカワイイ商品だ(下写真)。
この写真の一番左の“お化け”、名前は『とんがり』というらしい。この『とんがり』君が、世界企業3Mの数々の商品を抑えてのランキング第1位商品なのである。正式な商品名は『スビスバ スポンジ とんがり』で、メーカーは『旭化成ホームプロダクツ株式会社(東京・千代田区、以下旭化成HP)』。3M同様、これまた世界的な化学メーカー『旭化成』の子会社で、旭化成の家庭・日用品部門というべき企業である。家庭用品としては台所で使う『サランラップ』は、誰でも知っている旭化成HPの商品である。
この『スビスバ スポンジ とんがり』が第1位になった理由として、記者が思いつくのは、「先が尖っていて隅々まで洗えそうなスポンジ形状を、お化けのように可愛らしく仕上げたこと」。そんな本当にちょっとしたことが、こうしたマーケットでは売上げに大きく影響するのかもしれない。もちろん化学メーカーとして、素材の性能という理由はあるだろうが、それは3Mの商品も同じこと。むしろ、このカワイイ形と色と顔、これに旭化成のブランド力が加わって、大ヒットになったのかもしれない。いずれにしても、上位商品のシェアの差はわずかである。
さて上の(表1)が、今回の「台所用スポンジ」のランキング表である。ここまで紹介したように、第1位が『旭化成ホーム スビズバ スポンジ とんがり 1個』で、第2位と第3位の『3M』商品を従えている形だ(下写真)。ざっと表を見てもらうとわかるが、以下TOP30に3Mの商品がズラリと並んでいる。旭化成HPと3Mの商品でTOP30のうち20商品を占めているのだ(表の赤色の部分)。
今回のこのランキング表(表1)は、『日経POS情報POS EYES』を使用して、日本経済新聞社が全国のスーパーから独自に収集した2020年6月から2021年5月のPOSデータを、「流し用品」という大分類の中の「スポンジ」という小分類でソートをかけ、その販売金額によりランキング上位30商品をまとめたものである。いくつかの商品名が長いため、作表の際に、3Mの商品名のカタカナや英数文字を半角に変えて記載したものが数多くあるが、原本はすべて全角文字である。
ランキング表を見ると、確かに第1位は旭化成HPの商品だが、同社の商品はランキング30位までには他に見当たらない。それどころか、このデータの全945位までの中にランクインしている同社の商品は、わずか5アイテム(すべて「ズビズバ」ブランド)しか存在しないのである。それに比べ、全945位までにランクインしている3M商品の数は109アイテム。5対109、まさに桁違いに豊富な3M商品のバリエーションである。
“オール和歌山”なら3Mのシェアを上回る?!
ところが、この3M商品の109アイテムを上回るアイテム数をランクインさせているメーカーが1社あるのだ。(表1)の商品名の冒頭に「アイセン」と書いてある商品を製造・販売する株式会社アイセン(以下アイセン)である。ランクインしているアイテム数はなんと121個!アイセンの商品は、スポンジ素材がユニークなので、売り場でも見ただけで同社の商品(下写真)だと判別できる。
また3Mを上回らないまでも、ほぼ3Mと同数をランクインさせているのが、(表1)の商品名に「オーエ」とある、株式会社オーエ(以下オーエ)。こちらのアイテム数は103個である。
このアイセンとオーエ、一瞬目を疑ったが、実はどちらも本社が和歌山県海南市にある。まさか偶然だろうかと調べてみると、和歌山県海南市は、もともと良質の棕櫚(シュロ)が採れるため、それを原材料とするたわしや箒(ほうき)の一大産地で、Wikipediaによると「今日でも炊事、洗濯、トイレ、風呂など水回り品におけるシェアは全国の8割強を占め、中小含め企業数は100近くに上る」ということらしい。そこで確認してみると、(表1)の第17位の商品メーカー、キクロン株式会社(以下キクロン)も、今でこそ本社は和歌山市だが、もともとは海南市(旧海草郡下津町)の会社である。このアイセンとオーエ、キクロンという和歌山のメーカーが、(表1)のTOP30中6商品を占める(表1の緑色の部分)。また今回上位30位には入っていないが、全体では和歌山のメーカーが(表1)のデータにはたくさんランクインしていることが確認できたのである。
さらに、(表1)をメーカー別で見てみると、トップシェアは3Mで、シェア2位は自社開発商品(PB)となっている。PBは、流通・小売りが企画・開発した商品を、どこかのメーカーの工場で製造するパターンが多いのだが、ある大手ドラッグストアのPBの台所用スポンジの製造元が「和歌山県海南市」の企業になっていることを記者は今回確認している。トップシェアの3Mの販売シェアは33.5%だが、今紹介した和歌山県海南市のメーカーのシェアや、PB提供しているメーカーのシェアなども合わせると、つまり“オール和歌山”のシェアで見れば、世界の3Mのシェアを追い抜くことは、ほぼ間違いない。旭化成や3Mのようなグローバル企業と、和歌山県海南市という極めてローカルな企業群が、熾烈なシェア争いをしている「台所用スポンジ」というマーケットは、本当に興味深いのである。
個数シェアでは1,2位独占!システムポリマーの格安スポンジ
「台所用スポンジ」のマーケットで興味深いことは他にもある。今度は、(表1)の水色の部分の商品の話である。
まず(表1)の第4位にランクインしている『システムポリマ ネットスポンジ 5個』だが、今回この商品そのものは入手できなかった。なんせカバー率5.1%である。諦めようと思っていたら、この商品の“そっくりさん”があちこちの店頭に並んでいるのを発見。しかもメーカー名は様々で、すべて中国製。それら商品は全部「5個入りパック」で、ネットスポンジのネットの柄もすべて同じで下の写真のように特徴的である。調べてみると、どうやらシステムポリマー株式会社(東京・豊島区)の中国工場からのOEM提供のようである。そこで同社に電話をかけ確認すると、予想通り同社の中国工場でいくつかのOEM商品を製造していることがわかった。OEMの提供先は、記者が独自に数えただけでも10社は下らないと思われる。
これらの商品、とにかく安いことが特長。5個入りで60円代~80円代。つまりスポンジ1個当たり十数円である。(表1)をよく見てもらうとわかるが、第4位のこの商品、確かに販売金額シェアでは第4位だが、「個数シェア4.4%」はダントツの第1位である。それだけ価格が安いということだ。しかも5個入りなのだから、1個1個のスポンジ個数のシェアで考えれば、4.4%は20%に匹敵すると言っても過言ではないかもしれない。この商品が、OEM供給されて、さまざまなメーカー名で数多く販売されている(上写真)わけだから、どれだけ膨大な数の「ネットスポンジ」が市中に出回っているかわかるだろう。ちなみに、「個数シェア」で見ると、全体の第2位も同社の5個入り格安スポンジ『システムポリマ ソフトスポンジ 5個』で、(表1)のランキングでは第20位にランクインしている。「個数シェア」なら、システムポリマー商品は、1,2位独占なのである。
オシャレな『おさかなスポンジ』のメーカーは明治5年創業の老舗だった!
さて今回最後のネタである。(表1)の第21位に『マーナ おさかなスポンジ K170DP』という商品がある(下写真)。この商品、売り場では、そのオシャレな外見で結構な存在感があり、“売り場観察”をした限り、若い女性客が手にすることが多いように見える。実は、記者も以前使用したことがあるのだが、「使いやすいものの、少々壊れやすい商品だ」との印象がある。その経験から、勝手に「デザイン性を重視した、新しいベンチャー企業の商品」と決めてかかっていたのだが、今回、調べてみて驚いた。
この『おさかなスポンジ』の製造元、株式会社マーナ(東京・墨田区)は、なんと明治5年創業の老舗中の老舗企業だったのだ。来年で創業150周年である。もともと新潟県長岡で、初代・名児耶寅松氏が刷毛やブラシの製造で創業し、その後、数々の経緯を経て、現在は4代目・名児耶美樹氏が代表取締役を務め、東京に本社を置く会社となっている。
こうしてみると、「台所用スポンジ」のメーカーは、もともとは「たわしや刷毛やブラシなどを作っていた製造所」が多いようである。先に紹介した和歌山市のキクロン株式会社の定番商品『キクロンA』のパッケージには、レトロなイラストと共に「たわしの革命児」という文言が記されている(下写真)。
台所用スポンジは、ハイテク化された、まさに革命的な「たわし」だったのである。そのハイテク部分に、3Mや旭化成といったグローバル化学メーカーが目を付けた一方で、旧来の「たわし」側からアプローチしているのが和歌山県海南市を中心に存在する数多くのローカル企業。「台所用スポンジ」市場は、この両者がランキング上位に混在する、面白い市場となっているのである。(写真・文/渡辺 穣)
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