[第42回]昨年秋発売のP&Gと花王の「洗濯用液体洗剤」は「詰替用」の売れ行きに差!? コスパの1位はあの洗剤!洗剤選びは「液性」や「蛍光剤」にも注意。

 今回のテーマは「洗濯用液体洗剤」である。コロナ禍以降、様々なジャンルの商品が「清潔」「健康」「抗菌」「消毒」といったトレンドに向かってシフトしているように見える。この点「衣料用液体洗剤」も同様である。昨年秋発売の各社の新商品は、今、どのような売れ行きなのか。また各社商品の「成分」や「洗濯1回あたりのコスト」はどうなっているのか。データを調べ、コスパを計算し、表にまとめた。商品選びの参考にして欲しい。

 シャンプーや台所用洗剤などと同様、「洗濯用液体洗剤」も、最初に「本体」を買うと、あとは「詰替用」を買い換えていくタイプの商品である。メーカーにとっては、いかに詰替用をたくさん売るかが、ビジネスの分かれ目になる。『日経POSランキング』ではこれまで、このような“詰替ビジネス型”の商品を扱うときは、「詰替用」ではなく「本体」の方の販売状況を紹介してきた。同じ商品を何度もリピーターとして購入する「詰替用」の販売状況よりも、新しく登場した商品の動きを知りたいという目的があったからだ。
 しかし、今回は「本体」と「詰替用」の両方のランキング表を作成した。市場規模を比較してみたときに、「詰替用」の販売金額が、「本体」の販売金額の5倍以上もあり、ここまで差が大きいと、何か大事なものを見落とす心配があるように思えたからだ。
 というわけで、さっそくいつものように『日経POS情報POS EYES』を使って、「洗濯用液体洗剤」の販売状況を調べてみた。

「洗濯用液体洗剤」売り場は、棚のほとんどが詰替用商品に占められている。

なぜ?詰替用の反応が鈍い『花王 アタック3X』

 今回使用したデータは、大分類「洗濯用洗剤類」の中の、「一般衣料品用液体洗剤」と「一般衣料品用液体洗剤(詰替)」という2つの小分類カテゴリーである大分類「洗濯用洗剤類」の中は、液体洗剤だけでなく、粉末や固形、さらに柔軟仕上げ剤や漂白剤、洗濯用のりなど16もの小分類に分かれているが、金額シェアで「液体」洗剤は、粉末や固形を大きく引き離してトップなので、今回は「液体」にフォーカスし、記事中では「洗濯用液体洗剤」と呼ぶ。

 まず上のランキング表(表1)は、「一般衣料品用液体洗剤」「本体」の販売金額ランキングである。データは日本経済新聞社が全国のスーパーから独自に収集した2021年5月のPOSデータを使用。つまり直近1ヶ月間の売れ筋商品TOP20のランキングだ。
 このTOP20をざっと見渡すと、20商品のうち半数の10商品はプロクター・アンド・ギャンブル・ジャパン株式会社(以下P&G)の製品で、8商品が花王株式会社(以下花王)の製品、残る2商品がライオン株式会社(以下ライオン)の製品であることがわかる。この比率はメーカー別の販売シェアともおおむね一致し、P&Gと花王が激しいトップ争いを繰り広げ、その背後をライオンが追いかけるという展開になっている。この販売シェアの状況は、本企画の[第22回]で取り上げた「布製品用消臭・芳香・除菌剤」市場に酷似している。P&Gの『ファブリーズ』、花王の『リセッシュ』、そして両社を追いかけるライオンの『トップ ナノックス』である。もちろん、それだけでなく、P&Gと花王は、さまざまな商品で熾烈なシェア争いを繰り広げている。

TOP3の商品。第3位の『P&G アリエール バイオサイエンスジェル 部屋干し用』は、「菌のエサまで徹底洗浄」をキャッチフレーズに、部屋干し臭対策に特化した洗剤である。

 (表1)のこのランキング表では、第1位は花王の『アタック3X』で第2位、第3位とP&Gの『アリエール バイオサイエンスジェル』の2商品、第4位にライオンの『トップ スーパーナノックス ニオイ専用』商品が続く。この順位とブランドを頭に入れて、次は「詰替用」のランキング表(表2)を見てみよう。

 今度は「一般衣料品用液体洗剤」の「詰替用」商品の販売金額ランキングである。TOP20の中に「本体」同様、P&Gが10商品、花王が8商品、ライオンが2商品と3メーカーが同じ比率でランクインしているが、各メーカーの最上位の顔ぶれを見ると、P&Gとライオンは(表1)と同一商品だが、花王は(表1)の商品とは異なっている。具体的に言うと、花王は「本体」では『アタック 3X』がトップで、次に『ニュービーズ』がランクインしていたが、詰替用では『アタック 抗菌EX』が上位に3商品もランクインし、次に『アタック ゼロ』が入っている。「本体」で第1位だった『アタック 3X』は、「詰替用」では第13位と第17位である。

花王の『アタックゼロ』は、どの売り場でもたくさん陳列されている。(表1)のカバー率をみても、この商品だけが唯一70%を超えている。

 ちなみに新商品の発売時期を調べてみると、「本体」でトップの花王の『アタック 3X』は昨年9月1日、一方P&Gの『アリエール バイオサイエンスジェル』は、昨年8月31日で、ほぼ同時期である。つまり両メーカーともに、昨年秋に発売されたばかりの新商品がTOP3に入っているという人気ぶりなのである。ところが(表2)とよく見比べて見ると、「本体」で第2位、第3位のP&G商品は、「詰替用」でもそのままの順位で第2位、第3位と順調なのに対し、「本体」で第1位の花王商品は「詰替用」では第13位と第17位に甘んじている。これは一体どういうわけなのだろう。

こちらも昨年秋発売のP&Gの新商品、「本体」ランキング第13位の『P&G アリエール バイオサイエンス ジェルボール』。粉末でも液体でもない、ジェルボールで、洗濯がさらに簡単に。

 冒頭にも書いたとおり、メーカーにとっては「詰替用」こそが大きなビジネスチャンスである。そう考えると、P&Gの昨年秋の新商品は、まず「本体」が売れて、そのまま順調に消費者の購買行動が「詰替用」へとシフトしているように見えるが、花王の新商品は、今「本体」は売れているが、まだ「詰替用」へのシフトは進んでいないようにも思えるのである。『花王 アタック3X』の売れ行きが、これから先どう推移していくのか、今後の動きが非常に気になるところである。

「詰替用」のランキング第1位『花王 アタック 抗菌EX スーパークリアジェル』。売り場では、やはり新商品の『アタック 3X』よりも目立っていた。

液性や蛍光剤に注意!コスパは意外な大差が!

 次は(表1)の「本体」TOP5の商品について、パッケージに書かれている情報などから、それぞれの商品の「液性」「蛍光剤の有無」「洗濯1回当たりの価格」という3つの視点から比較し下の(表3)にまとめてみた。 


 まず「商品名」のすぐ右の欄の「液性」だが、TOP3の新商品は、花王もP&Gもどちらも弱アルカリ性なのである。台所用洗剤も同様だが、液性は中性よりも弱アルカリ性の方が洗浄力は強くなる。しかし、その分、デリケートな衣料の洗濯には不向きである。ウールのような動物性の繊維や、「中性洗剤使用」のタグが付いている衣料はこの3商品では洗えないので注意が必要である。

蛍光剤無添加の左『ライオン トップ ナノックス』と右『花王 ニュービーズ リュクスクラフト』。

 同様のことは「蛍光剤の有無」にも言える。蛍光剤が配合されていると、白い布が太陽光で青白く輝くために、白さが際立つのだが、きなりや淡いパステル調の衣料に使用すると、色落ちを早めたり、変色させる心配がある。これらのTOP3の新商品は、いずれも洗浄力や抗菌力、消臭など、あらゆることに秀でていることが売り文句だが、どんな衣料にでもガンガン使用できるわけではないことは、一応頭に入れておいた方がいいだろう。

第1位『花王 アタック3X』の裏ラベル。この「使用量の目安」から、コスパを算出した。

 次の欄は「洗濯1回当たりの価格」である。「洗濯用液体洗剤」のコスパは、単純に「価格を内容量で割る」といった比較はできない。というのも、各洗剤それぞれが、1回に使用する洗剤の量が異なるからだ。そこで、各洗剤の容器の裏に書かれている「使用量の目安」(上写真)から、水量45Lで洗濯したときの使用量を調べ、(表1)の「平均価格」を使用して、独自に算出したのが表の金額である。コレを見ると、洗剤により結構大きな差があることがわかる。一番コスパがいいのはライオンの『トップ スーパーナノックス ニオイ専用』。これはパッケージに「高濃度洗剤」と書いているだけあって660Gのボトル1本で、水量45Lの洗濯が44回もできる。(表1)の「平均価格」を見ると、この商品は286円なので、「286円÷44回」で「洗濯1回当たりの価格」は6.5円となるわけである。これに対し、P&Gの2商品は割高で、ライオンに比べ2倍近い差がある。P&Gは価格で勝負をしていないということなのだろう。「いい商品なら高くても売れる」という自信なのかもしれない。花王の2商品は、ライオンとP&Gの中間くらいのコスパになっている。

コスパ最強の『ライオン トップ ナノックス』。液性が中性で、蛍光剤フリー。さらに消臭効果での評価が高いブランドでもある。

 最後に、どの「洗濯用液体洗剤」を選べばいいかという話である。実際に使って「どの洗剤の洗浄力が強いか」「新商品の特長は?」といった記事をアップしている記事が、ネット上には大量に掲載されているので、そうしたサイトを参考にするのもいいだろう。どのメーカー、どのブランドを選ぶかは、人それぞれである。何より「コスパ重視」という人もいれば、「洗浄力や機能」が一番という人もいる。「香りや柔軟剤」が重要という人もいる。自分は何を重視するのか。それで取捨選択するしかないだろう。

P&Gの『アリエール バイオサイエンスジェル』。洗浄力の高さが売り。『アリエール バイオサイエンス ジェルボール』も売れているが、香りはどちらも強めである。

 個人的には、記者は「中性」で「蛍光剤フリー」であること、そして何より「できるだけ香りがしないこと」が重要だと感じている。昨今は「部屋干し臭」を意識した商品が多いようだが、記者はそれと同じくらい「洗剤臭」も嫌いなのである。そういうわけで、(表3)の中ではライオンの『トップ スーパーナノックス』ブランドが一番魅力的だ。また普段記者が実際に使用しているのは、(表1)の第6位『花王 アタックゼロ』である。この商品も、「中性」「蛍光剤フリー」で、洗濯後の香りもほとんど感じない程度で記者にとっては好ましい。さて、あなたは何を選ぶだろうか。(表3)の情報は、実際に販売している価格と、各メーカーのブランドサイトなどからのデータから導き出すことができるので、気になる銘柄について比較してみることをおすすめしたい。(写真・文/渡辺 穣)

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渡辺 穣

複数の雑誌のデスク・編集長等を経てフリーライター/エディター。主にビジネス/経済系の著書・記事多数。一橋大学法学部卒。八ヶ岳山麓に移住して20年以上。趣味は、スキー、ゴルフ、ピアノ、焚き火、ドライブ。山と海と酒とモーツァルトを愛する。札幌生まれ。

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