[第44回]「カニ風味かまぼこ」の売れ筋商品はどれ? カネテツ『ほぼカニ』はカニを超えた!? 本当にカニを食べている気分にさせる商品を作るメーカーとは?
いつの頃からか、「ほぼほぼ」という言葉をよく聞くようになった。巷では「ほぼ」と「ほぼほぼ」、どちらがより完全に近いのか、といった論争もあるようだが、その結論はともかく、この「ほぼ」という言葉を“ある商品”の商品名に使った時点で、その商品の“勝ち”は、ほぼほぼ決まったかのように記者には思えるのだ。今回のテーマは「カニかま」である。
「カニかま」は、『日経POS情報POS EYES』の商品分類では、大分類「かまぼこ」の中の小分類「カニ風味かまぼこ」のこと。「板かまぼこ」、「笹かまぼこ」など、6つある小分類の中で、「かに風味かまぼこ」のシェアはダントツである。では、この「カニ風味かまぼこ」では、今どんな商品が売れているのか、さっそく調べてみた。
上の表は、日本経済新聞社が全国のスーパーから独自に収集したPOSデータを使用し、2021年5月1ヶ月間の「かに風味かまぼこ」の販売金額により作成したランキングから、その上位20商品を掲載したものである。
今回記者は事前に知り合い10人ほどに、「カニかまと聞いて思い浮かべるメーカーは?」とのヒアリング調査を実施し、「日水(日本水産株式会社)」4名、「紀文(株式会社紀文食品)」2名、「わからない」4名という回答を得ていた。そして蓋を開けてみると、上の(表1)の通りの結果である。確かに上位20商品中で最も多かったメーカーは、ヒアリングの回答と同じく「日水」で、6商品である。ところが「紀文」は1商品のみ。「日水」の次に多いのは「一正(一正蒲鉾株式会社)」の5商品、その次が「スギヨ(株式会社スギヨ)」の3商品となっている。これらのメーカーには失礼だが、こうなると「わからない」という回答も、うなずけるのである。
商品別のランキングでは、第1位は『カネテツ ほぼカニ 特製黒酢入和だしカニ酢付 90G』。メーカー名は「カネテツデリカフーズ株式会社(神戸市東灘区、以下カネテツ)」、商品名は「ほぼカニ」である。冒頭に書いた「ほぼ」が、ここでようやく登場するわけである。
カニは、「カニかま」以外なのであ~る!
実は「カニかま」という商品に対し、記者はかつてどこか釈然としないものを感じていた。本当は「かまぼこ」のくせに、その身分を隠して「カニ」であることを自慢しているような商品。そういう印象がぬぐえなかったからだ。しかし時が経ち、これはもはやカニのまねではなく、「カニかま」という新しい1つのジャンルだと思えるようになっていたのも事実。「カニ」が食べたいから、ではなく「カニかま」が食べたいという理由で、「カニかま」を買うようになっていたからである。
そうした“フェイク商品”であることの“後ろめたさ”のようなものを、「ほぼ」というネーミングを付けることで、逆にスカーン!と笑い飛ばしているところが、おそらくこのカネテツというメーカーの強さであり、『ほぼカニ』という商品がヒットしている理由なのではないかと記者は勝手に感じているのだ。
何より、上の写真を見て欲しい。これらはカネテツのメーカーサイトのトップページと商品ページにある画像である。「カニかま」が本物のカニを差し置いて、思いっきり“自己中”をかましている。「カニ」と「カニかま」という従来の見方に対し、カネテツは、同社の『ほぼカニ』を中心に、「ほぼ」と「ほぼ以外」という目線で世界を見ている。まるで世界は『ほぼカニ』を中心に回っているかのようである。そしてこの2枚の写真の中間に、次のような説明文がある。
「食卓でクスリと笑ってもらえる、家族の話題のきっかけになる。そんな商品を作りたいと考えています。」
クスリどころか、これは大笑いである。こういうスタンスは見ていて気分がいい。次はぜひ、さらに“カニ感”をアップした「ほぼほぼカニ」も出して欲しいものである。
ちなみに、この『ほぼカニ』には、「黒酢入り和だしカニ酢」が付いており、それを付けて食べると、これがまた一段とカニを食べているかのような感覚が増す(上写真参照)。カネテツのTOP20ランクイン商品は、この第1位の1商品だけだが、アイテムとしてはいくつかのバリエーションもあり、2020年6月~2021年5月の1年間の「カニ風味かまぼこ」の『日経POS情報POS EYES』のデータでは、カネテツのメーカー別シェアは第5位となっている。また商品ランキング第1位の『ほぼカニ』はカバー率でも第1位で、スーパーにより品揃えがまちまちだった「カニかま」の中で、この『ほぼカニ』は、記者が見て回ったどのスーパーにも陳列されていた。
かまぼこトップの「一正」、PBでも売る「日水」、「スギヨ」
さてメーカー別シェアの話が出たので、同じデータで、さらに上位メーカーを紹介すると、第5位のカネテツの上に、第4位が自社開発商品(PB)、第3位がスギヨ、第2位が日水、第1位が一正となっている。(表1)のランキングでも、一正の商品は第2位から第4位を占めているが、表中の「個数シェア」で見ると、一正は第1位、第2位を独占していることになる。
記者は、かまぼこメーカーについて、全く“土地勘”がなかったが、『一正』というメーカーは、「かまぼこ」全体で見ても、2017年~2020年の期間で毎年トップシェアという、いわば業界トップメーカー的存在なのである。実際、売り場でも「カニ風味かまぼこ」の近くの棚に、一正の「板かまぼこ」をよく見かけた。しかし、伝統的な日本の食材のメーカーでありながら、これまでオレンジ色の「みかん風味カニかま」や、青色の「ソーダ味カニかま」、さらには昨年はハロウィーンバージョンの真っ黒な「黒トリュフ味カニかま」を出すなど、一正もまた先のカネテツに負けない“遊び心”を感じさせるメーカーなのである。
(表1)のランキングに戻ると、第19位に『日水 くらし良好 海からサラダかまぼこ 6本×2』という商品がランクインしている。この『くらし良好』というブランドは、
AJS(オール日本スーパーマーケット協会)のPBである。実はこの商品に限らず、売り場で見つけた多くのPB商品の製造元を調べると、日水とスギヨが製造している商品が非常に多かった。つまり、日水とスギヨは、自前のブランドでの販売のほかに、PBでの売上げがかなりありそうで、それを考慮すれば、「カニ風味かまぼこ」での1位一正、2位日水、3位スギヨという3社の売上げ順位はもっと違ったものなのかもしれない。
リアル形状のものはスティックタイプと色素が違う!
さて、今回、実際にスーパーで購入した「カニかま」を、あれこれ調理して食べて気が付いたことをいくつかご紹介しよう。何より、この食材は何に使うにしろ便利である。もちらろんそのまま食べることもできるし、どんな料理に加えても合ってしまう。もともと魚のすり身なので、高タンパク低脂肪でヘルシー。色も派手で、子ども用の“デコ弁”にももってこいである。
とはいえ、子どもだけに独占させる手はない。さっとお皿に盛って、エキストラバージンオイルとバジルでワインや冷酒のお供に美味しい一品となる。こうしたカニの姿を残して、歯応えを楽しみたいときには、カニの太い身をそのまま取り出したような「リアルタイプ」がいい。実は、売り場には、このようなリアルな「カニかま」が多く並んでおり、しかもそれがよく目立っているのである(上写真)。
それに対して、お弁当に入れたり、サラダに加えたり、カニ玉のように和えたりするようなときは、小さな棒状の「スティックタイプ」が使いやすい。ほぐしたり、巻いたり、詰めたりといった作業がやり易いからである。
「スティックタイプ」のカニかまは、基本的に価格が安く、どのメーカーの商品も見た目が似ていて、さらにPB商品が非常に多く売られている。今回は深くは触れないが、「スティックタイプ」のカニかまの赤い色は、ほとんど「紅麹(ベニコウジ)色素」が使われている。それに対し、「リアルタイプ」のカニかまの方は、その色素に「カロテノイド色素」や「パプリカ色素」が使われていることが多い。ヘルシー食品として、こうした添加物も気になる方は、パッケージの原材料欄に記載があるので、ネット等で調べてみると、購入時の参考になるはずだ。
最後になるが、今回入手した「カニかま」をすべて食べてみて、ひとつハッキリと感じられたことがある。それは、どの商品も、見た目や食感はカニに近づけられても、やはり「味はかまぼこ」だったことだ。特に、口の中で噛んでしばらくすると、どれも結局かまぼこになってしまう。1つのメーカーの商品を除いてはだ。その1つのメーカーとは、「一正」である。一正の「カニかま」だけは、他の「カニかま」とは、ひと味違う隠し味が感じられる。口に入れたときに「ああっ、これはカニだぁ」としみじみ感じる。気になる方、ぜひお試しあれ。(写真・文/渡辺 穣)
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