[第55回]「ペットボトル入りスポーツ飲料」販売金額ランキング&糖質濃度表。素早い水分吸収を目指すか、ゆっくりエネルギーも補給するか。目的に合わせて選ぼう!
残暑厳しい季節である。スーパーマーケットでは、アイスクリームや冷たいドリンクの棚が拡張されたり、大量のドリンク商品が毎日大量に補充される日々となっている。周囲を見渡すと、スポーツドリンクを日常的に飲んでいる人も少なくない。熱中症予防などのため、そして健康維持、ダイエットのためにも、スポーツドリンクは上手に飲みたいもの。今日のテーマは「ペットボトル入りスポーツ飲料」である。
ペットボトル入りのスポーツ飲料と聞くと、誰もがそれぞれ思い浮かべるブランドがあるだろう。おそらくその思い浮かべたブランドは、販売金額ランキングで上位を占めていると思う。しかもその種類は、実はそれほど多いわけではないのだ。さっそくランキング表を見てみよう。
なんとTOP20を占めたのは、わずか3つのブランドだけ!
いつものように『日経POS情報POS EYES』を使い、まずは「スポーツ飲料」で検索してみた。すると商品分類の大分類には「スポーツ飲料」というカテゴリーがあり、そこにはペットボトルや缶、瓶、紙パック、パウチなど飲料が入っているパッケージにより、あるいは粉末といった形態の違いにより分けられた幾つもの小分類がある。その中で「ペットボトル入りスポーツ飲料」のシェアは約9割でダントツだ。そこで、2020年8月から2021年7月の1年間の「ペットボトル入りスポーツ飲料」の販売状況を検索してみた。使用したデータは、その期間に、日本経済新聞社が全国のスーパーから独自に収集したPOSデータである。「金額シェア」により順位を決め、それが同値の場合は「千人当り金額」の多寡により順位を決めた。そのランキングTOP20が下の(表1)である。
(表1)を見ると、赤が上位を固めている。青も頑張っている。緑、うーん、ちょっと少ないかな。乱暴に言うと、そんな感じに見える。赤は日本コカ・コーラ株式会社(東京・渋谷区、以下コカ・コーラ)、青は大塚製薬株式会社(東京・千代田区、以下大塚製薬)そして、緑はサントリー食品インターナショナル株式会社(東京・港区、以下サントリー)である。そして、この3社以外の商品はない。このランキングデータをメーカー別で出力すると、まさにこの色分けの通りで、シェア1位はコカ・コーラ、2位は大塚製薬、3位はサントリーで、4位に自社開発商品(PB)を挟んで、キリンビバレッジ、明治、アサヒ飲料と続く。
もう少し詳しく見ていこう。コカ・コーラの商品は、TOP20のうち半分の10商品を占めてはいるが、商品の種類としては3種類しかない。『アクエリアス』と『アクエリアス ゼロ』と『アクエリアス 1日分のマルチビタミン』である。他はその3種類のサイズ違いだ。同様に大塚製薬の商品も『ポカリスエット』と『ポカリスエット イオンウォーター』の2種類だけ、サントリーも『グリーンダカラ』と『グリーンダカラ 塩 ライチ&ヨーグルト』の2種類だけだ。つまり、このTOP20には3メーカーで合計7種類の商品しかないことになる(下写真)。
もっと言えば、TOP20に存在するブランドは、『アクエリアス』『ポカリスエット』『グリーンダカラ』の、わずか3種類だけである。いかがだろう、スポーツ飲料と聞いて、多くの人は、この3種類のブランドのどれかを思い浮かべたのではないだろうか。ちなみにスポーツ飲料のブランドは、この3種類でシェア9割以上を占め、この3つに次ぐブランドは、株式会社明治(東京・中央区、以下明治)の『ヴァーム』である。
アイソトニック?ハイポトニック?どちらを選ぶ?
2種類のスポーツ飲料は、“飲むシーン”が違う!?
ところで、大塚製薬のポカリスエットのテレビCMで、かつて「アイソトニック飲料 ポカリスエット」という言葉が使われていたのを覚えているだろうか。この「アイソトニック」とは一体何のことだろうか。この話をとことんすると、非常に理屈っぽくなるので、ここではできるだけ簡単に済ませたい。
一言でスポーツ飲料と言っても、大きく2種類に分類できる。その1つがアイソトニック飲料。そしてもう1つがハイポトニック飲料である。「アイソトニック」とは英語で“isotonic”。「等圧の」という意味。一方の「ハイポトニック」とは英語では” hypotonic”。「低圧の」という意味である。そして「圧」というのは、この場合、「浸透圧」を意味する。浸透圧とは、文字通り、物質が浸透する圧力のことで、例えば水だけを通す膜で高浸透圧の液体(濃度が高い溶液)と低浸透圧の液体(濃度が低い溶液)を隔てると、水分は浸透圧が低い方から高い方に移動する。つまり濃度を一定にしようと動くのである。この浸透圧が、人体の体液の浸透圧と比べて、「等しい」のがアイソトニック飲料、「低い」のがハイポトニック飲料なのである。
スポーツドリンクの浸透圧を考えるとき、本当は、ドリンクに溶けている各物質のオスモル濃度(mOsm/L)を合計して計算するのだが、成分の分量から考えて、おおむね糖質の重量濃度から近似的に考えることができる。そこで、今回、(表1)にランクインしている7種類の商品のボトルに記載してある「成分表」から、糖質の重量濃度を計算し、濃度の高い順にまとめたのが下の(表2)である。
(表2)で、より赤色が濃い商品が、糖質濃度が濃い商品で、表の下にいくほど糖質濃度は低くなる。そしてここでは糖質濃度が3%前後よりも低い飲料を「ハイポトニック飲料」、それより糖質濃度が高い飲料を「アイソトニック飲料」と表記した。先ほど説明したように、あくまでも糖質の重量濃度は近似的なものなので、糖質以外の成分の種類や分量次第では一概に語れない。そこで1つの参考のために、(表2)の一番下に、販売金額ランキングで第49位の『花王 ヘルシアウォーター グレープフルーツ味』の数値も掲載した。というのも、この商品のボトルには「ハイポトニック設計」と書かれており、(表2)の下から2番目の『大塚薬 ポカリスエット イオンウォーター』に数値が近かったからだ。ちなみにボトルやWEBサイトに、「アイソトニック」とか「ハイポトニック」といった言葉が明記されているのは、記者が確認した限りでは、この『花王 ヘルシア』以外には『明治 ヴァーム』くらい。この『明治 ヴァーム』の糖質濃度は(表2)の最下段にある『コカ・コーラ アクエリアス ゼロ』に近い数字でやはり「ハイポトニック飲料」だった。
さて、この「アイソトニック」と「ハイポトニック」、2種類のスポーツ飲料だが、浸透圧の違いにより、体内への水分の吸収性が異なる。浸透圧の話で説明したように、水は濃度を一定に保つように、浸透圧の低い方から高い方に移動するので、浸透圧の低い「ハイポトニック飲料」の方が、水分の吸収性が高いのである。それに対し、「アイソトニック飲料」は、体液に近い浸透圧のため、身体への負担が少なく、ゆっくりと水分や成分が吸収される。
この性質の違いをスポーツ飲料を飲むシーンで考えると、「アイソトニック飲料」はスポーツ前に飲むことで、ゆっくり水分や塩分などを補給しつつ、糖分というエネルギーの補給もするというシーンに適している。一方の「ハイポトニック飲料」は、スポーツ後など汗をかいて体内の電解質が減少し、濃度が低下しているときに、素早く水分や塩分を補給するのに適している。つまり熱中症予防とか、運動後にバテている状態のときに飲むのがいい。「ハイポトニック飲料」は、糖分を少なくした分、塩分やその他ミネラル等の成分を増やしているので、発汗等で失われた成分の素早い補給に向いているのである。今発売されている多くのスポーツ飲料は、この浸透圧の違う2種類の飲料をベースに、様々な機能性成分を加え、それぞれ特長を持たせた商品となっている。
ほとんどのスポーツ飲料には、この「アイソトニック」「ハイポトニック」の区別は書かれていないので、(表2)のように糖質濃度で自分で判断して、何を選ぶのかを決めるのがいいだろう。多くのスポーツ飲料の成分表示は、「100ml当たり」の含有成分が書かれているので、例えばそこに「炭水化物 6.5g」と書かれていれば、糖質濃度は6.5%と考えることができる。食物繊維が含まれていないスポーツ飲料の「炭水化物」とは、「糖質」のことだからである。
もう一度、(表1)のランキング表に戻ろう。メーカー別シェアで圧倒的に強いコカ・コーラは、アイソトニック飲料の通常の『アクエリアス』と、ハイポトニック飲料の『アクエリアス ゼロ』、さらにアイソトニック飲料にさまざまなビタミンを配合した『アクエリアス 1日分のマルチビタミン』をランクインさせている。さらにTOP20にはランクインしていないものの、炭酸入りの『スパークリング』や『まもる乳酸菌ウォーター』など、さまざまな機能を持たせた『アクエリアス』ブランドを販売(上写真)しており、そのアイテム数は他社を圧倒している。それに対し、大塚製薬やサントリーはこうしたコンセプトの異なる商品の種類が少ない。この差は、販売シェアの差に直結しているようにも見える。
最後になるが、記者の個人的なスポーツ飲料の選び方はおおむね以下のとおりである。基本的にスポーツ用やアウトドア用としてのどの渇きを癒やすために準備するなら、アミノ酸系の成分が多いものを店頭で探して決める。バテバテで水分補給を急ぐときは、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム等の電解質が多くハイポトニック飲料である『ポカリスエット イオンウォーター』、ダイエット気分なら脂肪の代謝を高める機能性表示食品の『明治 ヴァーム』を選ぶ。さてあなたは何をどう選ぶ?(写真・文/渡辺 穣)
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