[第57回]「箱入りティッシュ」は何で選ぶ?肌触り?コスパ?今流に「SDGs」の視点で選べば、やはりアレとコレでしょ!環境に優しいティッシュの選び方。
総務省家計調査のデータから算出すると、日本人は1人年間15箱前後ものティッシュペーパーを消費しているようである。つまり1人で月に1~2箱くらいは使っているわけだ。あなたはいかがだろうか。しかも記者がこれまで世界20カ国程度で取材した経験を思い返せば、日本人ほど毎日、何にでもティッシュペーパーを使う国民はいない気がする。今回のテーマは、日本人の毎日に“欠かせない”この「箱入りティッシュ」である。
はじめに断っておくが、「ティッシュ」と書くと必ず「ティッシュではなくてティシューが正しい」などと、もっともらしい文句を言う人がいるが、『日経POS情報POS EYES』でも、表記基準のバイブルとでも言うべき共同通信社の『記者ハンドブック』でも、「ティッシュ」の表記を使用しているので、本稿もそれに倣って使用している。
話を戻そう。日本人は、本当に毎日たくさんのティッシュペーパーを使う。鼻をかむ、汚れを拭き取る、虫を捕まえる、お菓子の下敷きにする、めがねを拭く等々。ところが、ティッシュペーパーをたくさん使うことが、森林伐採や環境破壊につながっていると考える人は、残念ながらあまり多くないように思える。ネットで調べても、「ティッシュはたくさん使うので、肌触りが良くコスパのいいものを選ぼう」という論調が大半で、せいぜい「節約の工夫」のブログ記事などをちらほら見かける程度なのだ。
「FSC」認証材使用のティッシュを買う意味とは?
ティッシュペーパーの原料は木材パルプがほとんどで、一部、再生紙を利用したものもあるが、値段は安くても品質が悪いなどの理由でなかなか売上げにはつながらない。そうなると、ティッシュペーパーをガンガン使うということは、乱暴に言えば、ガンガン木を切って、捨てていることと変わらないことになる。米国に拠点を置く非営利環境擁護団体NRDC(Natural Resources Defense Council:天然資源保護協議会)が出しているレポート(下写真参照)の言葉を借りれば、『我々がトイレットペーパーを消費すればするほど、世界中の森林が失われる。つまり森林をトイレに流しているようなもの』ということになる。この文ではトイレットペーパーだが、ティッシュペーパーとて同じこと。テッシュペーパーを使うことは、気候変動や野生動物の絶滅をもたらすような環境破壊に加担することになるわけだ。
この問題を解決するには、製紙メーカーが地球環境のためにティッシュに替わる素材の研究開発に多額の費用を負担する必要があり、その促進のために、消費者は環境に優しい商品を買うことで、メーカーの環境保護活動の後押しをすることが大事になる。そこで今、消費者として行えることの1つが「FSC」マークの紙商品を買うことなのである。
「FSC」とは、Forest Stewardship Councilの頭文字をとった略称で、日本語では「森林管理協議会」と訳されている。1993年にカナダで創設された森林管理の認証を行う協議会で、国際本部はドイツのボンにある。この「FSC」が認証した木材を使用すれば、環境や社会に大きな負荷をかけずに工業製品の生産が行えるという取り組みで、その認証材を使用している証しとして「FSC」マークが商品に表示されているのである(下写真)。
「箱入りティッシュ」を買うときに、何に着目するか。これまでは、圧倒的に「肌触り」と「コスパ」の両立だったかと思うが、これを機に、「FSCマークの有無」にも、ぜひ注目して欲しい。少しでも、そうした意識を持ち、同時にティッシュペーパーの使用量を少しでも減らす意識を持つことができれば、それは結局は「地球環境の保護」という自分の利益として帰ってくる。それが持続可能な社会というものでもあり、昨今、やたらと流行っている「SDGs」の目標達成にも寄与することになるはずだ。
ブランド力の強さか?クレシアの『クリネックス』
さて今回は、そうした視点で「箱入りティッシュ」の販売金額ランキングを見ていきたいと思う。いつものように『日経POS情報POS EYES』を使用し、2020年8月から2021年7月までの1年間に、日本経済新聞社が全国のスーパーから独自に収集したPOSデータで「箱入りティッシュ」で検索。販売金額の多寡により、商品のランキングTOP20をまとめたのが、下の(表1)である。ちなみに「箱入りティッシュ」市場は、メーカー別に見ると、大手製紙会社系のメーカーがシェア上位を占めているが、昨今、それ以上に自社開発商品(PB)の販売シェアが上を行く状況になっている。なので(表1)に出てくる商品だけでなく、PB商品の存在にも注意して見なければならない。
おそらく多くの消費者にとっては、メーカー名よりも、『クリネックス』や『エルモア』、『ネピア』や『エリエール』、『スコッティ』といったブランド名に馴染みがある商品ばかりだろう。前述したように、メーカー別のシェアトップはやはり自社開発商品(PB)なのだが、その下の第2位に日本製紙クレシア株式会社(東京・千代田区、以下クレシア)、第3位に大王製紙株式会社(東京・千代田区、以下大王)、第4位に王子ネピア株式会社(東京・中央区、以下ネピア)と続く。表の色分けで言うと、青、緑、赤の順になっている。そしてそれに続くのが黄色のカミ商事株式会社(愛媛県四国中央市、以下カミ商事)である。着色されていない4商品は、「カバー率」も一ケタの商品ばかりで、今回、売り場でも一度も見かけなかったものばかり。逆に、カバー率の高い商品は、やはりクレシアの商品に多く、特に第15位の『クレシア スコッティ カシミヤ W220組』に至っては「84.7%」という圧倒的な数字となっている。このクレシアの強さは、その営業力も含め、一言で言えば、『クリネックス』『スコッティ』のブランド力というものだろうか。
また、今回はランキング表の右端に「一組当り平均価格」という欄を設け、記者が『日経POS情報POS EYES』のデータから、独自に算出した「ティッシュ一組の単価」を掲載した。例えば、第1位の『クレシア クリネックス ティシュー W180組×5』では、平均価格が311.6円で、内容量が180組×5=900組なので、一組当り311.6÷900=0.35円(小数第3位を四捨五入)となる。この金額を見れば、スタンダードな商品か、品質重視のプレミアム商品かがおおむね見分けられる。第15位と第16位の2商品は、明らかに他よりも高級な商品で、微妙な位置にあるのが第13位であることがすぐに見て取れるだろう。さて、ここで前述したように、環境コンシャスな「FSC」マークの有無に着目して(表1)を見てみよう。実は、この(表1)のランキングTOP20の商品の中に、「FSC」マークのある商品は3つだけあるのだ。
「FSC」に積極的なのは『ネピア』と“あのPB”だけ!
その3つというのは、表の赤色の部分、つまりネピアの3商品である。ネピアの親会社である王子ホールディングス株式会社(東京・中央区)は、日本の製紙業界のリーディングカンパニーであり、環境保全への取り組みにも非常に積極的だ。ティッシュペーパーだけでなく、同社では多くの紙製品で「FSC」マーク入りの商品を展開、その1つが『ネピア』ブランドのティッシュペーパーなのである。ただし、同じ『ネピア』ブランドでも、肌触りの良い保湿ティッシュで知られる『鼻セレブ』シリーズは「FSC」マークのない商品である。一方、ネピア以外の大手製紙会社系メーカーの「箱入りティッシュ」には「FSC」マークは全く確認できなかった。
ところが、である。売り場に出て、いつものようにPB商品の製造元などをチェックしていると、PBのなかで1つ、「FSC」マークの入ったブランドを発見したのである。それがスーパー最大手のイオンのPB『トップバリュ』の商品だったのだ。
店頭で確認できたのは『トップバリュ』のティッシュの4つのラインナップ。外箱のない低価格商品から、ローション入りの保湿タイプのものまで、すべて「FSC」マーク入りの商品だった。『ネピア』ではローション入りの保湿タイプ『鼻セレブ』は「FSC」対応商品ではなかったが、『トップバリュ』では、すべての商品が「FSC」対応なのである。
『トップバリュ』のブランドサイトを見ると、同ブランドは環境に対するこだわりが強く、多くの紙商品に「FSC」認証材を使用していることがわかる。例えば、上の写真の右側の商品は、『トップバリュ』の『保湿ローションティシュー』という商品で、売り場では『クリネックス ローションティシュー肌うるる』と並べて売られていた。どちらも204組入りのローション入り保湿タイプ。ライバル関係となる商品なのだろう。価格は、どちらも税別で『トップバリュ』の方が一箱158円、『クリネックス』の方は一箱198円だった。品質は、記者の感覚ではどちらも遜色ない。これは個人差、好みがあるので絶対ではない。それで一方は値段が安く、「FSC」認定材使用である。あなたならどちらを選ぶだろう。
最後になるが、(表1)のTOP20の商品で、「一組当り平均価格」が0.3円前後のスタンダード商品の中では、肌触りがやさしい質感で良かったものは、第4位、第7位、第11位の商品だった。また『トップバリュ』の価格の安い方の3商品(上写真)は紙質はあまり良くなかった。こうしたことをふまえ、ただ単に「コスパがいい」とか「こっちが肌に優しい」といった事ばかり考えるのではなく、用途や価格を考慮しながらも、地球環境に優しい商品を選び、企業の環境への取り組みをぜひ後押しして欲しい。それが「SDGs」時代に生きる私たちの務めであると記者は考えるのである。(写真・文/渡辺 穣)
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