[第58回]だしの入らない「一般みそ」販売金額ランキング。TOP20に信州みそが10商品。信州みそ以外でのトップは九州のメーカー。仙台の赤みそも6位に。

 古くから「手前みそ」、「ぬかみそ臭い」という言葉があることからもわかるように、かつて日本では、みそは各家庭で作るもので、今でも日本人の生活とは切っても切れない生活に密着した食材である。もちろん現在は、家庭でみそを作る人はごくごく少数派。みそ作りは工業化され、さらに「だし入り」だの「液みそ」だのと進化も遂げている。今回のテーマは、この「みそ」。しかも“だしの入っていない”オーソドックスな「一般みそ」にフォーカスしたいと思う。

 なぜ今回“だしの入っていない”ことに注目したのかというと、いつものように『日経POS情報POS EYES』で調べはじめたところ、大分類「みそ」カテゴリーの中には、さらに6つの小分類カテゴリーがあり、その中でシェア1位が今回のテーマである「一般みそ」であることがわかったからである。そして以下、第2位に「だし入りみそ」、第3位に「一般みそ(減塩)」と続くのだ。
 そこで、データの期間を昨年8月から今年7月までの1年間とし、日本経済新聞社が全国のスーパーから独自に収集したPOSデータを使って、小分類「一般みそ」で販売金額ランキングTOP20をまとめたのが、下の(表1)である。

 この表を見て、普段、スーパーでみそをよく買う人なら、「どうして、あのみそがランクインしてないのだろう」と気が付くかもしれない。「あのみそ」は、どのスーパーの店舗にも、本当に必ずと言っていいほど大量に陳列されているし、明らかによく売れている様子が感じられるからである。もうおわかりだろう、「あのみそ」とは、『マルコメ 料亭の味』シリーズのみそのことだ(下写真)。実際に『日経POS情報POS EYES』で調べると、『マルコメ 料亭の味』は、みそ全体の大分類「みそ」カテゴリーで販売金額が堂々の第1位。業界新聞などの記事で見ても、ほぼ独走状態で売れているのは事実のようである。だが最初に書いたとおり、今回のテーマは「一般みそ」。「だし入りみそ」である『マルコメ 料亭の味』は、今回のカテゴリーには含まれていないのである。

どの店にも大量に並ぶ、『マルコメ 料亭の味』シリーズのみそ。マルコメは、この「だし入りみそ」に加え、「液みそ」など、商品開発力が業界トップ維持の原動力になっている。

信州みその中に割り込むフンドーキン

 (表1)に目を戻すと、とはいえやはりトップは、マルコメ株式会社(長野県長野市)の商品。「だし入りみそ」だろうが「一般みそ」だろうが、トップはマルコメの商品というわけだ。
 第1位の『マルコメ プラス糀 糀美人 無添加 カップ 650G』(下写真)は、商品名にもあるとおり、「糀(こうじ)」を同社の標準使用量の2倍と、贅沢に使っていることが最大の特長である。しかし、そもそも「糀」とは何なのだろうか。

ランキング第1位『マルコメ プラス糀 糀美人 無添加 カップ 650G』。

 みそとはご存じのとおり、大豆などの穀物に、麹(こうじ)菌を培養した米や大豆、麦などを加え、食塩を混ぜ、発酵・熟成させた日本の伝統的な食品のこと。その麹菌を米で培養したものを米麹、大豆で培養したものを豆麹、麦で培養したものを麦麹といい、それぞれを使用したみそを、米みそ豆みそ麦みそ、それらを混合したみそを調合みそと呼ぶ。ただし、調合みその定義はその他にもいろいろとある。

 このうち日本でもっとも多く製造されているのは、米麹を使用した米みそで、製造量全体の約8割を占める。その米みその中で、一番ポピュラーなのが、「信州みそ」である。つまり多くの人は、知ってか知らずか、信州味噌を食べていることになる。麹は、みその味を決める大事な要素なので、特に麹にこだわったことをメーカーがアピールしたい商品には、「麹みそ」などと商品名に「麹」の文字が入っていることが多いが、全ての味噌は「麹みそ」であることに違いはない。(表1)の20商品を見ても、7商品の名前に「こうじ」「糀(こうじ)」の文字が入っているのがわかる。米麹は、発酵によって作られるさまざまな健康食品の元になっていて、日本人の食卓には欠かせないもの。麹のなかでも、原料穀物の表面にムラなく菌糸が繁殖したものを「糀」というらしいが、特にそうした米麹のことを「糀」という文字で表す場合もある。米で麹菌が繁殖するときに、あたかも米の上に花が咲いたかのように見えることから、そう言われるらしい。

ランキング第1位(手前)、第2位(右奥)、第4位(左奥)は、いずれも長野県のメーカーによる「信州みそ」である。

 そういうわけで、話を戻すと、第1位の『マルコメ プラス糀 糀美人 無添加 カップ 650G』は、その「糀」をふんだんに使って作られたみそであるとパッケージにも書かれている。業界団体である全国味噌工業組合連合会の加入企業数で見ると、長野県のメーカーは107社でトップ。またみそ生産量ベースでも第1位は長野県で、さらにメーカー別シェアのトップ3も、マルコメ、ハナマルキ株式会社(長野県伊那市)ひかり味噌株式会社(長野県下諏訪郡)といずれも長野県のメーカーで占められる。(表1)のランキングでも、TOP20の半数の10商品は信州みそである。

長野県に本社もしくは本店がある主な「みそメーカー」。

 さてランキング第1位のマルコメみそに続き、第2位、第4位も、ひかり味噌とハナマルキの商品で信州みそだが、そこに割って入っているのが、第3位の『フンドーキン 生詰無添加 あわせみそ カップ 850G』(下写真)である。
 メーカーのフンドーキン醤油株式会社は大分県白杵市に本社を置く会社で、どことなくユーモラスな名前とともにファンも多い。商品名に「あわせみそ」とあるが、これは「米みそと麦みそを調合したみそ」ということである。多数派の米みそを標準と考えると、麦みそは一種独特の香りがあり、多少の好き嫌いはあるかもしれないが、それだけに“ハマると癖に”なる。この商品が第3位で売れているということは、やはりハマっている人も多いということなのだろう。

信州みその間に割って入った、ランキング第3位の『フンドーキン 生詰無添加 あわせみそ カップ 850G』。 

仙台みそ、西京みそって、どんなみそ?

 ところで、何事にも「日本三大○○」というのがあるように、みそにも「日本三大みそ」なるものがある。諸説あるようだが、「白みそ」「八丁みそ」「仙台みそ」をもって日本三大みそとすることが多いようだ。「あれ、信州みそは入ってないの?」と疑問に思うかもしれないが、「信州みそ」は「白みそ」としてカウントされている。そして、その他にもう1つ「白みそ」の代表格が、京都の「西京みそ」である。京都・丹波の特定の味噌蔵産みそで、宮中料理用として献上されたのが始まりということらしい。詳しくは、西京味噌株式会社(京都市上京区)のサイト内にある「西京味噌について」のページを参考にして欲しい。

ランキング第15位の『西京味噌 京の彩 西京白みそ カップ 300G』。売り場ではとても目立つ商品だ。

 ちなみに、(表1)のランキング表内には、同社の商品『西京味噌 京の彩 西京白みそ カップ 300G』(上写真)が第15位にランクインしている。一般に、白っぽいみそは、短気熟成で塩分が少ないので、あっさりとした上品な甘みが特長となる。この第15位の商品も100g当り食塩相当量は4.9gと少なく、米麹の甘みが特長の白みそである。見た目に華やかなパッケージで売り場でよく目立ち、しかも比較的多くの売り場で見かける商品でもある。
 「白みそ」の話が出たついでに、反対の「赤みそ」の話もしておこう。色の濃い「赤みそ」は、白みそとは反対に、熟成期間が長く塩分が多いのが一般的。その代表格が先ほど挙げた日本三大みその1つ「仙台みそ」である。「仙台みそ」は、米みその赤みそで、ランキング第6位の『仙台 ジョウセン 仙台みそ カップ 750G』の場合、100g当りの食塩相当量は13.1gもある。第15位の西京みその3倍近い分量だ。とはいえ、みそという食材は、含まれる塩分にあまり神経質になる必要はない。というのは、結局、食べるときに味で調整するので、摂取量としてはさほど変わらないことになるからである。『仙台 ジョウセン 仙台みそ カップ 750G』の製造元は仙台味噌醤油株式会社(仙台市若林区)で、仙台みその歴史は仙台藩主・伊達政宗公が日本初のみそ工場を建造した1626年に遡るとか。詳しくは同社サイトから。

信州みそは、白みそと赤みその中間的な色をしているが、白みそとして日本三大みそにカウントされる。

豆みそ特有の風味、八丁みそ

 最後に残った日本三大みそが「八丁みそ」である。八丁みその最大の特長は、豆みそ赤みそであること。米麹や麦麹を用いず、大豆の全てを麹にした豆麹で2年以上もの長期熟成で作られる。現在の愛知県岡崎市八帖町(かつての八丁村)にて生産されてきたので、「八丁みそ」というわけである。八丁みそのメーカーは、株式会社カクキュー八丁味噌(本社は合資会社八丁味噌、愛知県岡崎市)株式会社まるや八丁味噌(愛知県岡崎市)の2社のみで、今回のランキングTOP20には残念ながらランクインしておらず、最上位が第40位の『八丁 カクキュー 赤出し 八丁味噌 ピロー袋 300G』だった。ただ、ここでは触れないが、「八丁みそ」という商標をめぐっては従前より愛知県内のみそ業者で争いがあり、いまだに決着していない。例えばランキング第5位(下写真)、第18位にランクインしているメーカー・マルサンアイ株式会社は愛知県岡崎市に本社のあるメーカーで、主に豆みそを製造しているが、豆みその商品であっても、その商品名に「八丁みそ」の言葉はない。八丁みそは少しいがらっぽい独特の味わいが特長で、その味はお酒が好きな人なら、小料理屋などで出される「赤出汁」の味と言えば、ピンとくるかもしれない。

ランキング第5位の『マルサン 純正こうじみそ ガセット袋 750G』。この商品は米みそである。

 以上、「3種類の麹」の話や「白みそ」、「赤みそ」の話、「日本三大みそ」の話などを交えながらランキングを見てきたが、ガラリと視点を変えると、京都の西京みそだけが、宮中御用達のいわゆる公家の文化だったのに対し、他のみそは武家の文化であることも記者的には面白い。伊達政宗が仙台みそ、徳川家康が八丁みそを後押しし、そして信州みそを支えた武将は武田信玄だったのである。そうしたことを思いつつ、スーパーでみそ選びをするのもまた一興である。(写真・文/渡辺 穣)

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渡辺 穣

複数の雑誌のデスク・編集長等を経てフリーライター/エディター。主にビジネス/経済系の著書・記事多数。一橋大学法学部卒。八ヶ岳山麓に移住して20年以上。趣味は、スキー、ゴルフ、ピアノ、焚き火、ドライブ。山と海と酒とモーツァルトを愛する。札幌生まれ。

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