[第61回]「簡易型ドリップコーヒー」ランキングTOP20のコスパ比較!手間暇かけないコーヒーにいくらお金をかけるか?レギュラー豆と比較考察してみた。
『日経POS情報POS EYES』で、商品分類の大分類「レギュラーコーヒー」を検索すると、その下に「レギュラーコーヒー(豆)」「レギュラーコーヒー(粉)」「簡易型ドリップコーヒー」「その他レギュラーコーヒー」という4つの小分類カテゴリーが存在する。その中の「簡易型ドリップコーヒー」が、今回取り上げるテーマである。挽いたコーヒー豆を紙製の簡易なドリッパーにセットした形の商品である。
通常、レギュラーコーヒーを淹れるときは、まず焙煎したコーヒー豆をミルで挽き、そしてドリップやサイフォンで出すことになる。そこで、焙煎してある豆をそのまま売れば、消費者にとっては最も手間がかかるが、メーカーにとっては手間のかからない商品ということになる。次に、メーカーが1段階多く付加価値を付けて、豆を挽いて粉にして売れば、消費者の手間暇は軽くなるが、その分値段が高くなる。さらに、挽いたコーヒー豆の粉を簡易的なドリップに入れて売れば、消費者の手間暇はさらに軽くなって、その分さらに値段が高くなる。この3段階が、先の小分類「レギュラーコーヒー(豆)」「レギュラーコーヒー(粉)」「簡易型ドリップコーヒー」に該当する。この手間暇の軽減に対して、消費者がどこまでお金を支払えるかを見極めることが、メーカーにとっていい商品を作る大事なポイントになるわけだ。しかも、メーカーが付加価値を付けるたびに、コーヒー豆の味が落ちていくのが普通なので、その点も考慮しなくてはならない。
このようなことはレギュラーコーヒーに限らず、どんな商品にも当てはまる。利便性のいい物、すなわちメーカーが付加価値を多く付けたものは値段が高くなる。例えば肉を考えれば、ただの塊の肉が一番安いが、それをスライスすれば少し価格が上がり、そのスライス肉に味を付ければ、さらに価格が上がり、調理までしてあれば、さらに価格が上がる。その分、消費者の手間暇が軽くなっていくが、肉の鮮度はどうだろう。消費者は、このように自分の手間暇を軽減する付加価値に、いくらまでならお金を出せるのかを見定めなければならなくなり、その1つの指標として「コスパ」を考えるわけだ。今回のランキングは、このコスパに焦点を絞って見ていきたい。
UCCがトップ3独占、追うキーコーヒー
さっそく『日経POS情報POS EYES』で、日本経済新聞社が全国のスーパーから独自に収集した昨年8月から今年7月までの1年間のPOSデータを、商品分類「簡易型ドリップコーヒー」で検索し、商品別に販売金額上位20位までをまとめた結果が下の(表1)である。
まずTOP3をUCC上島珈琲株式会社(神戸市中区、以下UCC)の『職人のコーヒー』ブランド(上写真)の風味の異なる3種類の商品が独占しているのが目を引く。なんとこの3商品だけでシェア約20%を占めているのだ。この3商品、第6位の期間限定商品を除けば、「カバー率」もトップ3独占という万全の強さを見せている。次に第4位から第6位までを今度はキーコーヒー株式会社(東京・港区、以下キーコーヒー)の3商品(下写真参照)が独占。その占有率は約11%だ。これだけでもおおよそ想像がつくが、この2社が、メーカー別のシェアでのトップ2である。
ランクイン商品数で一番多いのが、ネスレ日本株式会社(神戸市中央区、以下ネスレ)の商品で、TOP20に5商品をランクイン。同社はメーカー別シェア第3位である。そのほか、4商品をランクインさせている片岡物産株式会社(東京・港区、以下片岡)、第7位にランクインの味の素AGF株式会社(東京・渋谷区、以下AGF)の商品、京都のコーヒー一筋の会社・小川珈琲株式会社(京都市右京区、以下小川珈琲)も2商品をランクインさせている。
さて、今度は、これらの商品を、最初に書いたように、コーヒー1杯当たりいくらなのかを計算し、(表1)と同じランキング順で表にしたのが、下の(表2)である。
大きな差が付いた「1杯価格」、あなたはどれを選ぶ?
表内の「1杯価格」というのは、(表1)の「平均価格」を、各商品の内容量(何杯分)で割った金額である。これを見て非常に特徴的なのは、第5位までの商品の「1杯金額」の安さである。どれも1杯20円にすら届かない。つまり、ある意味、このトップ5の商品は、「安いから売れている」と言ってもあながち偽りではないと考えられる。と同時に、この「1杯価格」、差がとても大きいことに気が付いただろうか。最も安い14.7円と、最も高い93.3円では、6倍以上の差が付いている。
ちなみに、多少の説の違いはあっても、通常美味しいレギュラーコーヒーは10gの豆に140mlのお湯を入れて1杯を作るのが平均的だと言われている。その基準に照らして(表2)を見ると、小川珈琲の2商品だけは「1杯に10g」の豆を使用しているが、他はすべてそれより少ない豆の分量(6~9g)で1杯としている。特に第4位、第5位のキーコーヒーの商品は1杯6gと最も少ない豆の量で1杯としており、それが効いてか「1杯価格」も最も安くなっている。そうした視点もぜひ持って欲しい。
また記者は、いつもレギュラーコーヒーを豆の状態で購入しているが、200g入りで650円~800円も出せば、かなり質のいいローストしたての美味しい豆が手に入れられる。つまり1杯で10gの豆を使用すると考えれば、1杯当たり32.5円~40円で炒りたて、挽きたての豆で本格的なストレートコーヒーやブレンドコーヒーが楽しめるわけだ。
そのことを念頭に(表2)を見たときに、その「1杯価格」が32.5円~40円より安いTOP5の商品や、第7位、第18位の商品を買うのはわかるが、それ以外の13商品はすべて、レギュラーコーヒーの豆を買ってくるよりも割高という計算になる。メーカーが手間をかけるのだから割高になるのはわかるが、その分やはり味も落ちると考えるのが一般的な判断であろう。
残念がら、記者はネスレが販売している『ナスカフェ ドルチェグスト』(上写真)という、専用マシンを使用することを前提にしたコーヒー(ランキング表第9位、第11位、第15位、第16位、下写真参照)を味わったことがないので、味については何とも言えないが、一般論として、やはり挽いた豆は、いくら酸素を抜いて密封しても挽いてない状態の豆よりも早く味は劣化する。そのコーヒー1杯に、(表2)に示したように50円~90円もの高いお金をかけるのは、「自宅でカフェを楽しめる」というリッチなムードなのだろうか。この料金は通常のレギュラーコーヒー豆なら200gで1000円~1800円もする豆が買えるものである。コーヒー豆の最高峰、ブルーマウンテンだって、ひょっとしたら買えてしまう値段なのだ。
1杯26.2円という絶妙な価格とオシャレ感際立つ商品
以上のように、1杯当たりの豆の使用量やその金額を考慮し、さらにいくつかの商品を試飲してみて感じたことを最後にまとめてみたい。
まず、第1位と第4位の商品を試飲した。どちらも深煎り豆で、酸味を抑え苦みとコクを重視した作りとなっている。この2商品は、簡易ドリッパーの形状といい、淹れたコーヒーの味といい酷似している(下写真)。豆の分量が7gと6gなので、記者としては、少しお湯の量を少なめにして120ml程度で味わった。ここまで似ているのなら、第4位の商品を買った方がコスパが良さそうである。
次に第6位と第7位の商品を試飲した。第6位の商品は期間限定であるうえ、「1杯価格」が40円以上もする。その値段は、簡易ドリッパーの作りにも使われているのだろう。同じキーコーヒーでも、第4位の商品の簡易ドリッパーよりも随分としっかりとしたいい作りである(下写真)。それにしても1杯40円以上なら、記者は迷うことなく通常の豆を買う。同様に、第8位の小川珈琲も「1杯価格」約48円では、せっかく味は良かった(ブラジル豆の酸味が穏やかに出ていた)のだが、記者は買わない。コスパ的に選択肢から外れるのである。
そして今回、この「簡易型ドリップコーヒー」で唯一買ってもいいと感じた商品が、第7位のAGFの商品だった(下写真左)。まず「1杯価格」が約26円と手頃である。しかも1杯に8gの豆を使用している。これなら記者としては120mlのお湯でちょうどいい濃さだ。さらに、ブレンドしている豆が、コロンビアをベースにタンザニア産を使用。記者が毎日飲むコーヒーに、比較的味も近く、これなら悪くない。というか、ホッとできる味だった。酸味が少ないコーヒーが好みの人なら、このコーヒーはきっと気に入るはずだ。
第10位の片岡の商品『片岡 モンカフェ マイルドブレンド 徳用 8GX10』(下写真)は、簡易ドリッパーの作りが良く、「1杯価格」もギリギリ選択肢の範囲、豆は8gなので、120mlのお湯で作って味が気に入れば「あり」、だと思ったが、残念ながら記者の好みではなかった。味に関しては、各人の好みで大きく評価が左右する嗜好品でもあるので、参考程度に見て欲しいところ。またネスレの『ネスカフェ ドルチェグスト』は、前述したとおり今回は試飲していないのでわからない。
というわけで、今回のコスパから見た「簡易型ドリップコーヒー」の結論は、ランキング表で唯一色を着けていない第7位の『AGF ちょっと贅沢な珈琲店 レギュラー・コーヒー プレミアムドリップ スペシャル・ブレンド 8GX14』だけがお薦め、というものである。これなら、普段の豆を切らしたときでも、代わりに飲んでいい。しかもこの商品、個包装のデザインが可愛らしく、オシャレ。これなら来客時にも、場のムードが盛り上がりそうである。(写真・文/渡辺 穣)
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