[第65回]水産加工品の両雄「もずく」と「めかぶ」は、どっちが売れている?第1位の堀内の「もずく」が、他社の「もずく」と全く違うスゴいところとは?
「もずく」と「めかぶ」。どちらも低エネルギーで低脂質、しかもミネラルや食物繊維が豊富で、昨今では免疫力の向上にも効果があることで注目されている。古くから日本人の食生活には欠かせない「海藻類」という食材の中から、今回はこの「もずく」と「めかぶ」をテーマに選んだ。
納豆のように、小さな小分けのパックに入れられ、売り場では3個入りとか4個入りで棚に並んでいて、どちらもネバネバ、見た目にも似ている「もずく」と「めかぶ」。しかし好きな人の間では、はっきりと「もずく派」と「めかぶ派」に分かれているというから面白い。そもそもこの2種類の海藻、一体どちらが売れているのだろうか。
「もずく」と「めかぶ」で水産加工品の約4割を占める!
というわけで『日経POS情報POS EYES』の出番である。「もずく」も「めかぶ」も、どちらも大分類の「水産加工品」のカテゴリーに含まれているので、データ期間を直近の1年間(2020年9月から2021年8月)に設定し、この期間に日本経済新聞社が全国のスーパーから独自に収集したPOSデータを使い、「水産加工品」で検索。まずはその中の小分類にどんなものがあり、どれが売れているのかを調べてみた。その結果が、下の(表1)である。
これによると、「水産加工品」は13種類の小分類に分かれており、その販売金額を見ると、第1位が「モズク」(本稿中は「もずく」と表記するが日経POS 情報では「モズク」である)、第2位が「めかぶ」となっている。2つ合わせるとシェア39.3%。つまり水産加工品の売上げの約4割は、「もずく」と「めかぶ」で占められていることになる。
ちなみに、どちらも一次産品なので、その年の気候変動などにも影響されるかと思い、念のため、過去5年間のデータも調べてみたが、わずかな変動こそあれ、どの年もほぼ(表1)の結果と同じような差で、「モズク」の販売金額が「めかぶ」のそれを上回っていることが確認できた。平均価格が「モズク」の方がやや安いことも考慮すると、販売個数のシェアでは、もう少し両者の間には差があると考えられる。
さて、そこで次は、同じ直近1年間のデータで、今度は小分類の「モズク」と「めかぶ」だけに絞って、「商品別」で販売金額のランキングを調べ、そのTOP20をまとめたのが、下の(表2)である。
買えたのは3商品だけ!品揃えは店によりバラバラ。
まず(表2)を見て気が付くことは、表の右端にある「カバー率」が低いこと。この数値は、「商品の販売実績があった店舗の比率」を示すもので、要するにメーカーが各店舗にどれだけ商品を陳列できたかを表している。この「カバー率」が、最も高い数値を示している第1位の商品ですら14.6%に過ぎず、多くは6~7%止まりとなっている。つまりどのスーパーに行っても“必ずある”強力なナショナルブランド品のようなものはなく、店により、地域により、置いてある商品はバラバラに分散している様子が、この表から読み取ることができるのだ。こうなると商品を買いそろえるのがなかなか難しい。
実際に10カ所のスーパーの売り場巡りをしてみたが、案の定、このTOP20の商品ですら買い揃えることは、ほとんどできなかった。具体的に言うと、このTOP20の商品の中で、今回記者が購入できたのは、第1位、第6位、第16位のわずか3商品だけ(下写真)だったのである。比較的多くの店にあったのは、第1位の商品だけだった。
熊本のカネリョウの5商品、三重の山忠が4商品ランクイン!
次に、注目したいのはメーカーである。この表ではわからないが、このデータをメーカー別の販売金額で見ると、販売金額が一番多いのは実は「自社開発商品(PB)」なのである。その内訳はわからないが、各流通や小売りが独自のブランドで販売するPB商品の販売金額の合計が販売金額シェアのトップだということは、先に書いた強力なナショナルブランド品がないことの裏返しでもある。データでは、このシェアトップの「自社開発商品(PB)」に続く第2位のシェアを占めるのが、表で緑色に色分けしたカネリョウ海藻株式会社(熊本県宇土市、以下カネリョウ)、第3位が黄色の株式会社カネカシーフーズ(宮城県気仙沼市、以下カネカ)、第4位が赤色の山忠食品工業株式会社(三重県亀山市、以下山忠)と続くが、このメーカー別シェア第2位から第4位までのメーカーのランクイン商品を1つも買えなかったというのも珍しい。
ちなみに、メーカー別でシェア第1位の「自社開発商品(PB)」を売り場で探してみたところ、流通大手のイオンのPB「トップバリュ」からは、「もずく」も「めかぶ」も販売されており、売り場で確認した限りでは、製造元は山忠となっていた。また、AJS(オール日本スーパーマーケット協会)のPB「くらし良好」ブランドの商品の製造元はカネリョウのグループ会社の有限会社高木商店となっている(下写真)。もともとカネリョウは、1967年に創業者・高木良一氏が高木商店という個人商店から創業した会社で、現在では有限会社高木商店として、カネリョウグループの製造部門的存在となっている。2011年には同社仙台工場が稼働し、めかぶの製造は仙台工場が受け持っているようである。もちろんPBだけでなく、カネリョウの商品も同社が製造している。今回はこの2種類のPB商品しか確認できなかったが、それぞれシェア上位のメーカーが製造していることが確認できた。
「もずく」はほとんど沖縄産、一方「めかぶ」は三陸産が中心だが輸入もあり。
さて、再度、(表2)に目を戻そう。商品名を見ると、もずくは「沖縄産」、めかぶは「三陸産」という言葉が商品名にあるのが目に付く。まさにその通りで、もずくとめかぶは、はっきりと生産地が異なっており、もずくの産地は沖縄県、めかぶの産地は三陸海岸一帯の岩手県、宮城県が中心地となっている。ただ(表2)の商品にもあるように、めかぶに関しては、三陸産以外にも、三重県鳥羽の答志島産や瀬戸内の鳴門産も売れている。もずくも沖縄だけでなく、能登半島や佐渡などでも採れるようだが、日本で食べられているもずくの9割以上は、繊維が太くてぬめりの少ない沖縄産のもずくである。このように、主だった産地が、もずくは沖縄、めかぶは東北なので、メーカーの所在地も、もずくは南が中心、めかぶは北が中心になりがちである。前述したが、熊本のメーカー・カネリョウが仙台に工場を開設して、めかぶの製造をしているのは、そうした理由からなのだろう。本社が宮城県気仙沼市にあるカネカの主力商品は「めかぶ」(下写真)で、同社のサイトには「めかぶのこだわり」というコーナーもある。産地で見ると、これら国産の他に、めかぶについては中国産や韓国産のものも、多く出回っている。
“もずく一筋”が製造した、味付け無しのシャキシャキ生もずく!
冒頭に書いたとおり、今回は購入できたランクイン商品が、第1位、第6位、第16位の3商品だけだったが、その中の第1位の商品を最後に紹介したい。記者はめかぶが好きで、もずくは苦手なのだが、その大きな理由は、もずくはタレが別に付いているが、もずくは最初からタレを絡めて売っていることにある。どういうことかというと、もずくのタレは、おおかた三杯酢か黒酢で、記者はこの三杯酢や黒酢がダメなのである。もずく嫌いの理由は、素材ではなく、タレの方なのだ。
ところが、第1位の『堀内 一番採りもずく 沖縄産 240G』(上写真)は、珍しく全く味付けをしていない、“生もずくそのもの”なのである。それが良くて、この商品だけは、以前から記者が唯一好んで食べられるもずくだったのだ。素材を生でそのまま提供できるということは、それなりに素材に自信がないとできないことだろうと漠然と思っていたが、今回、こうして調べる機会があり、この商品の良さに納得できたのである。
メーカー名は、株式会社堀内(福岡県久留米市、以下堀内)で、自らを「もずくの堀内」と呼ぶ、もずく一筋50年の会社である。商品名にある通り、“一番採り”の原藻だけを塩漬けし、それを独自の技術で洗浄しただけのもずくは、記者が食べた限り、他のメーカーのもずくとは全く歯応えが違う。シャキシャキ、ゴリゴリしていて、柔らかな海藻の味がする。何の味付けも施されていないので、サラダに使ったり、スープに入れたり、そのままめんつゆで食べたりと、食べ方の自由度が大きい。まだ食べたことがない方、もずくの酢が苦手な方は、ぜひ一度、この『堀内 一番採りもずく 沖縄産 240G』をお試しあれ。(写真・文/渡辺 穣)
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