[第66回]「焼き肉のたれ」と「生姜焼きのたれ」、どっちが売れてる?どこが違う?トップ2社に味で差別化するローカルブランドやショップブランド!
スーパー巡りをしながら、今回のテーマは「焼き肉のたれ」にしようと思っていたが、『日経POS情報POS EYES』の商品分類を見ると、「焼き肉のたれ」売り場には類似した2種類のカテゴリーの商品が混在して売られていることに気が付いた。その2種類とは、「焼き肉のたれ」と「生姜焼きのたれ」である。そこで今回は、この2種類「焼き肉のたれ」と「生姜焼きのたれ」を一緒に扱うことにした。
この2種類のたれ、『日経POS情報POS EYES』では、大分類「和風調味料・ソース」の中の小分類に位置付けられる。この2種類の小分類の他に「焼き鳥のたれ」「蒲焼きのたれ」「天つゆ」などなど、11種類もの小分類カテゴリーが存在するが、市場規模でみると「ぽん酢しょうゆ」と「焼き肉のたれ」の2つが頭抜けて大きいようである。それでは、「焼き肉のたれ」と非常に似ている「生姜焼きのたれ」の市場規模はどうなのだろう。そこで、まずこの2つの小分類カテゴリーを抜き出して比較してみた。
比較に使用したデータは、昨年9月から今年8月までの1年間で、日本経済新聞社が全国のスーパーから独自に収集したPOSデータ。小分類「焼き肉のたれ」と小分類「生姜焼きのたれ」で検索をかけて、表にしたものが下の表である。
見てわかるとおり、「焼き肉のたれ」は「生姜焼きのたれ」より10倍以上も販売金額が大きい。かといって「生姜焼きのたれ」が消費者に人気がないというわけでもなさそうである。というのも、そもそも表の右端の「アイテム数」を見ると、「焼き肉のたれ」の方が約13倍も多いからである。「平均価格」も「焼き肉のたれ」の方が4割も高いので、そうした数値を考慮に入れると、むしろ「生姜焼きのたれ」はアイテム数の割には売れているとも言えそうである。
では、この2種類の「たれ」、一体何が違うのだろうか。そこで、今回買ってきた11種類の「たれ」(上写真)の原材料を比べてみると、いろいろと面白いことがわかってきたのである。
まず基本的な両者の違いは、「ごま」と「生姜」の有無である。どういうことかというと、「焼き肉のたれ」は原材料に「ごま、あるいはごま油」が入っていて、「生姜」は入っていない。それに対し、「生姜焼きのたれ」は原材料に「生姜」が入っていて「ごま、あるいはごま油」が入っていないのである。そして、その違いには例外もある。ただ今回買った商品を見る限りでは、“全国区”で売れているナショナルブランドの商品ほど、この基本的な違いに忠実であり、逆に“地方発”の商品にはユニークな例外的な「たれ」が多いようである。以下、それらをデータを見ながらご紹介しよう。
地方色クッキリの「ベル」、「上北農産」のたれ
ここでいつものように、ランキング表を見ていくのだが、今回は上位20商品ではなく、上位40商品を2つの表に分けて見ていきたい。ランキング作成に使用したデータは、上の表と同じ、つまり昨年9月から今年8月までの1年間で、日本経済新聞社が全国のスーパーから独自に収集したPOSデータで、小分類「焼き肉のたれ」と小分類「生姜焼きのたれ」で検索をかけて、販売金額によりランキングを作成した。まずは下の(表1)は、ランキング第21位~第40位である。
この(表1)の中で、着色しているのはキッコーマン株式会社(東京・港区、以下キッコーマン)とエバラ食品工業株式会社(横浜市西区、以下エバラ)の商品である。というのは、メーカー別で販売金額シェアを見るとエバラが断トツの第1位、次いでキッコーマンが第2位で、この両メーカーの商品は、いわゆるナショナルブランドのトップ2。全国どの地域でもまんべんなく売れている。そして、前述したように、この両メーカーのナショナルブランド商品は、きっちりと基本を守っている。つまり、「焼き肉のたれ」には「ごま、あるいはごま油」、「生姜焼きのたれ」には「生姜」が入っていて、それがゴチャゴチャになっているような例外的な商品は見当たらないのだ。
それに対し、例えば第37位ベル食品株式会社(札幌市西区、以下ベル)の「ベル 成吉思汗のたれ」は、北海道が本場のジンギスカンのたれなので、一概に比較はできないものの、「たまねぎ」と「生姜」をベースにしたたれになっており、第39位、第40位の上北農産加工株式会社(青森県十和田市、以下上北農産)の「スタミナ源 たれ」や「すたみな源 たれ」は、青森産の「りんご」や「にんにく」と「生姜」がベースになっている(上写真参照)。つまりどちらも「焼き肉のたれ」としては、「ごま」味ではない、例外的な商品なのである。そして札幌のメーカー・ベルも、青森のメーカー・上北農産も、それぞれ北海道や東北では根強い人気を持つ、まさに“地方発”のローカルブランド商品なのである。記者は札幌市の出身なので、ベルのたれの人気は身を以て理解できる上に、今でもやはりベルの「成吉思汗のたれ」は好きである。子どもの頃から慣れ親しんだ味は大人になっても抜けないのだ。
同様に地方発のメーカーとしては、第27位、第35位にランクインしている株式会社戸村精肉本店(宮崎県日南市、以下戸村)がある。こちらは九州・宮崎県のメーカーで、本業は会社名のとおり精肉業である。同社の「焼き肉のたれ」(上写真参照)は、基本を守った「ごま」味の「焼き肉のたれ」で九州地方を中心に売れている。
強い「エバラ」、PBの製造元にも多く参入!
さて次は、ランキング第1位から第20位の発表である。下の(表2)を見ると、(表1)に比べ、黄色と赤の比率が圧倒的に増えていることがわかるだろう。この上位20位までのうち、実に16商品が黄色と赤、すなわちエバラとキッコーマンの商品なのである。特にエバラの商品は、上位20位までで11商品、上位40位まででも18商品を占める強さを見せている。
ここで第3位にランクインしている株式会社叙々苑(東京・港区、以下叙々苑)の「焼き肉のたれ」(下写真)の話をしたい。今でこそ焼き肉チェーンの叙々苑は、北は札幌から南は沖縄まで、全国の大きな都市を中心に展開されているが、創業時からよく知っている記者にとっては、叙々苑はやはり東京・六本木の焼き肉店であり、「叙々苑ブランド」も“東京のブランド”としか感じられないのである。叙々苑の「焼き肉のたれ」は、確かに全国的にも売れているが、データを見るとやはり圧倒的に首都圏での強さが目立っている。そういう意味では、限りなくナショナルブランドに近い、ショップブランドと言えるかもしれない。この叙々苑の「焼き肉のたれ」は、基本的な「ごま」味のたれではあるが、「ごま」の他に「ごま油」も入っている。焼肉店叙々苑が創業時から育んできた味が楽しめる「たれ」である。同じように、焼肉店のブランドとしては、第18位の株式会社フードレーベル(埼玉県所沢市、以下フードレーベル)の「フードレーベル 牛角 焼肉のタレ 醤油だれ 」の「牛角」ブランドもある。
地方発という点では、もう1つ、第20位の株式会社創味食品(以下、創味)は京都市伏見区のメーカーである。同社の「焼き肉のたれ」(2枚上の写真)は、見た目にも紙パックに入っており、売り場で非常に目立つ。にんにく、玉ねぎ、生姜、それもごまも入った、ひと味違う本格的な焼き肉のたれである。
自社開発商品(PB)についても少し触れておきたい。メーカー別のシェアを見たときに、断トツでエバラ、続いてキッコーマンという話は既述だが、それに続き第3位が叙々苑、第4位に自社開発商品(PB)が来るのである。そこで、いくつかのPBの「焼き肉のたれ」の製造元を調べたところ、多かったのが何と「エバラ」だったのである(下写真参照)。特に、甘口、中辛、辛口と3種類に味が分かれている商品は、調べる前から「エバラかな?」と決めつけたくなるほど、エバラで占められている。まるで、「エバラ 黄金の味」がそのまま、ラベルを貼り替えてPBになっているのではないかと訝りたくなるほどだった。
最後に味の話である。これは好みの問題もあるので、とやかく言う気はないが、新しい商品を試したいときに、1つだけ参考にして欲しい見分け方がある。それは原材料の表記である。この表記は、多く含まれている順に記載されているので、一番先頭に書かれている原材料が、砂糖とか果物などの場合は、明らかに甘い傾向が強いのだ。例えば、ランキング第1位の「エバラ 黄金の味 中辛」の原材料を見ると、まず最初に「果実ピューレ」とあり、次が「醤油」「砂糖」と続く。実際、記者はこの商品は甘ったるくて好みではない。
ところが、同じ中辛でも、ランキング第4位の「キッコーマン わが家は焼き肉屋さん 中辛」の原材料を見ると、まず「しょうゆ」とあり、次が「果実ぶどう糖液糖」「砂糖」と続く。もし甘いたれに飽きたときは、単に辛口にするだけでなく、このように、原材料の最初に「しょうゆ」と書かれたものや、「砂糖」や「果実」類の少ないものを選ぶと、少し雰囲気の異なったたれを選ぶことができる。また、先述したように、「ごま」をベースにした基本的な「焼き肉のたれ」ではなく、「生姜」の入ったものを選んだり、ときには「生姜焼きのたれ」を選んだり(上写真参照)すると、自分の好みがはっきりと見えてくるので面白い。ぜひ、いろいろと試してみて欲しい。(写真・文/渡辺 穣)
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