[第40回]市場拡大する「ノンアルコールビール」。“高機能系”、“微アル”など、バラエティも増え、競争激化?! 『我慢の飲み物』から、今後どう卒業していくのか?!
今回のテーマは「ノンアルコールビール」である。『日経POS情報POS EYES』の商品分類では、「アルコールテイスト飲料類」という大分類の中の、「ビールテイスト飲料」という小分類のことである。まずはいつものランキング表を作る前に、「ノンアルコールビール」市場の最近の状況を調べてみた。
《サックリまとめ》
・市場拡大で、新商品も続々のノンアルビール市場
・2強のほか7銘柄を栄養成分などで比較!
・世界初!尿酸値を下げるノンアルビール登場
・味を追求!度数0.5%の“微アル”
・オールフリーの強さは、どこに?
この「ノンアルコールビール」という商品、ビール市場全体が下降気味な昨今にあって、市場が拡大している。コロナ禍で売れる食品となると、「家飲み」だの「健康志向」だのと、売れる理由を示すキーワードは共通してあげられるが、それに加え、ことアルコールに関して言えば、「Sober Curious(ソウバー・キュアリアス)」という、「しらふを楽しむ」若者のライフスタイルの影響もあるのかもしれない。
この「Sober Curious」については、本連載の[第7回]の記事でも触れたことがあるが、Soberとは「しらふ」、Curiousとは「~に興味がある」という意味で、全体では「しらふでいたい」と言うような意味になる。20代の若者を中心に、あえて酔うことにこだわらずに、しらふで飲食を楽しむスタイルは、世界的に流行っている。逆に言えば、「酔う」ことにこだわる飲み方は、今の若者から見れば「おやじ臭い」し「クールじゃない」のかもしれない。
さらに、WHO(世界保健機構)は、今世紀に入ってから、たばこ同様、アルコールの有害使用に関して目を尖らせており、日本では飲酒運転の厳罰化といった動きも相まって、2009年頃から急速にノンアルコールビールが普及し始めたという背景もある。
そうした諸々の事情に後押しされて、今、「ノンアルコールビール」市場は非常に元気で、ビールメーカーを中心に、新商品の開発・投入が相次いでいる。そこで、今回のランキングでは、できるだけ新しい動きを拾うために、使用するPOSデータの期間を直近の2021年5月の1ヶ月間にし、日本経済新聞社が全国のスーパーから独自に収集したPOSデータから、冒頭に書いたとおり「ビールテイスト飲料」という商品分類(小分類)で、販売金額により「上位20商品+1商品」をまとめてみた。それが下の(表1)である。なぜ42位を1つ加えたのかは後述する。
2強は『サントリー オールフリー』と『アサヒ ドライゼロ』
この(表1)をよく見ると、同じ銘柄のサイズ違いや、バラ売り、6本入りといったパッケージ方法の違いが多く、上位20商品といっても、そこには実際は8銘柄の商品しかないことがわかる。第42位の1商品を加えても、この表には全部で9銘柄の「ノンアルコールビール」しか登場しないのである。
表では『アサヒ ドライゼロ ノンアルコールビールテイスト飲料 缶 350ML×6』という6本入り1パックの商品が第1位で、やや2位に差を付けているが、この『アサヒ ドライゼロ』という銘柄は、3位、5位、11位、さらに19位にもランクインしている。同様に第4位の『サントリー オールフリー ノンアルコールビールテイスト飲料 缶 350ML×6』も6本入り1パックの商品だが、同銘柄は、6位、13位、15位、17位にランクイン。
この『アサヒ ドライゼロ』と『サントリー オールフリー』の2銘柄が、現在、ノンアルコールビール業界の2大銘柄で、それを反映してか、(表1)のデータをメーカー別に見ても、シェア1位のサントリーとシェア2位のアサヒビールはどちらも40%近いシェアでつばぜり合いしている。そしてその両社に次ぐ第3位のキリンビールは、シェア20%弱まで落ち込む。それ以下の順位のシェアは微々たるものである。先ほど、日本では飲酒運転の厳罰化からノンアルコールビールの普及が始まった旨を述べたが、当時先陣を切ったのがキリンビールの『キリンフリー』という銘柄だったことを思うと、現在は後発組が、先発のキリンビールを追い抜いた形になっている。
アルコール入りノンアル?や尿酸値を下げるものまで登場
さて、この(表1)に登場する9銘柄の「ノンアルコールビール」をメーカー別に見てみると、サントリーが2銘柄、アサヒビールが3銘柄、キリンビールが3銘柄、サッポロビールが1銘柄となっている(下写真)。その9銘柄を今度は、アルコール度数や栄養成分でまとめたのが、下の(表2)である。
(表2)の一番の左の「種別」という欄には、通常の「ノンアルコールビール(Nアル)」なのか、それとも「機能性表示食品(機表)」や「特定保健用食品(特保)」といった“高機能系”ビールなのか、それともアルコール度数1%未満の「微アルコール(微アル)」なのかの区別を表示した。
各メーカーが新商品を開発にするに当たっては、おそらく大きくは2つの方向性が考えられる。1つは「より美味しくすること」、もう1つは「ヘルシーな機能を付けること」。「美味しさ」には好みや個人差があるので一概には語れないが、「ヘルシー」という点では、9銘柄中4銘柄は、機能性表示食品か、特定保健用食品である。中でも、(表1)のランキングでは第42位だったにもかかわらず、わざわざ「+1商品」として表に書き加えた『サッポロ うまみ搾り』(表2の最下段、下写真)という商品は、「尿酸値を下げる」という世界初の機能を持っている。
もともとビールにはプリン体が多く含まれており、それが血中の尿酸値を高め、風が吹いても痛いと言われる「通風」の原因になることが、ビール消費のブレーキになってきたという経緯がある。そこでビールメーカー各社は、プリン体の含有量を意識して商品開発をしてきたのだが、この『サッポロ うまみ搾り』には、そのプリン体が入っていないだけでなく、尿酸値そのものを下げる機能がある成分「アンセリン」が入っているということなのだ。サッポロビールのサイトによると、「日本には血中尿酸値が7.0mg/dl以上の、いわゆる“通風予備軍”が1000万人以上、成人男性の5人に1人の割合で存在している」とのこと。彼らにとっては、この「尿酸値を下げる」機能は大きな魅力に映るはずだ。今回は、
この商品のこの機能を紹介するために、(表1)にあえて、第42位の商品を1つ付け加えたのである。
やっぱりビールに戻りたい?「微アルコール」
(表2)の9銘柄の中の、もう1つの話題は、表の中央にある『アサヒ ビアリー』(下写真)だろう。この商品は今年3月に発売されたばかりの新商品だが、「ノンアルコールビール」でありながら、アルコール度数が0.5%であるところが新しい。酒税法上は、アルコール度数1%以上が酒類に該当するため、0.5%は確かに“ノンアルコール”ということになるのだが、これを飲んでクルマの運転はNGである。アルコールが「ノン」ではないが、「微量」に含まれるため、アサヒビールは「微アルコール」とネーミングしたようである。ちなみに「ビアリー(Beery)」とは、「ビール臭い、ビールに酔った」という意味の「ビール(Beer)」の形容詞形でもある。
缶には「本格的なビールのようなおいしさを・・(中略)・・楽しんでいただける、微量にアルコールを含んだ商品」という説明が書かれている。つまりは先に書いた「より美味しくすること」の方向性に振った形で開発された新商品なのだろうが、アルコールを微量含むことで、飲んだら運転もできず、糖質、カロリー、プリン体を、他の商品よりも断然多く含むこの商品、果たして消費者は、どう判断するのだろうか。今後の動きに注目していきたい。
さて記者の目には、ビールに対する未練タラタラに映るこの『アサヒ ビアリー』に対し、『サントリー オールフリー』という商品は、ビールへの未練を吹っ切った商品のように見える。それは何より味である。『サントリー オールフリー』はビールの味がしないのだ(記者の個人的でポジティブな感想である)。もはやビールとは別の炭酸飲料だと考えることができる。その割り切り、そして「度数」、「糖質」、「カロリー」、「プリン体」のすべてがゼロである潔さ。このあたりが、メーカーでシェア1位になっている秘密なのではないかと密かに感じている。
そして、その『サントリー オールフリー』の高機能系、『サントリー からだを想うオールフリー』が、(表1)では通常の『オールフリー』より上位にランキングされている。やはり消費者には「同じ飲むならヘルシーなものを」の気持ちがあるのだろうか。
(表2)の下から3番目『キリン カラダフリー』も、4項目すべてゼロ(上写真)の潔さを持ち、さらに高機能を合わせ持った数少ない商品の1つだが、こちらはビールへの未練を引きずっている味がする。もちろん味の好き嫌いは人それぞれなので、読者は自分の好みで好きな商品を選べばいいだろう。ただ、今回、『サントリー オールフリー』の味について、「ビール臭くなくて美味しい」という感想を持ったのは記者1人ではなく、また女性に多かったことも付け加えておきたい。
かつて、「ノンアルコールビール」は、飲みたいのに飲めない「我慢の飲み物」と言われたものだが、これが「我慢」からではなく、積極的に選ばれて飲まれるようになるには、ビールの陰を引きずっていてはいけないように記者には思える。しかし、「ビール臭くなくて美味しい」と飲んだ女性から言われる商品でシェア1位のメーカーもあれば、今新たに「ビール臭い」というネーミングの新商品を出すメーカーもある。このあたりの各メーカーの示す方向性が、消費者にこれからどう受け入れられていくのか。市場に動きのある分野であるだけに、今後の販売状況が楽しみである。このテーマは、また来年、ぜひ続報としてお届けしたい。(写真・文/渡辺 穣)
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