[第18回]「救急絆創膏」市場は2社独占状態。しかし、その内訳を「モイストヒーリング」という視点で見ると、少し違った景色が・・・。

 今回のテーマは「救急絆創膏」である。というわけで、さっそく読者の皆さんに1つ質問がある。「あなたは、救急絆創膏のことを何と呼びますか?」

「バンドエイド?」それとも「カットバン?」それとも・・・。 この答え次第で、あなたの出身地がわかると言われるくらい、かつては「救急絆創膏」市場には地域差があった。ところが、その“地方色”がどんどん希薄になり、今ではどの地域でも、あの“2社”が独占している。今回は、いつもと違って、まずはこの質問の“答え合わせ”からスタートしていこう。

 上のマップは、日本の各県で使われている、「救急絆創膏」の呼び名を表したもので、阿蘇製薬株式会社(熊本県菊池郡)のHPから借用したものである。ネット上には、これと同様のマップがいくつか散見されるが、このマップが非常に見やすいため、こちらを使わせていただいた。

 このマップを見ると、「救急絆創膏」の呼び名は、大きく6種類に分けられている。その中で、「キズバン」と「ばんそうこう」という名前以外の4つは、いずれも「救急絆創膏」のブランド名である。その各ブランドの詳細等に興味がある方は、上のマップあるいはコチラをクリックすれば読むことができる。しかし本稿で注目したいのは、この中の『バンドエイド』という呼び名である。マップ上では緑色の県で使われている『バンドエイド』という呼び名は、今さら言うまでもないが、ジョンソン・エンド・ジョンソン株式会社(東京・千代田区/以下J&J)の救急絆創膏のブランドである。この緑色のエリアをよく見ると、東京を中心とする関東圏、大阪を中心とする近畿圏、名古屋を中心とする中京圏、それに四国の香川・徳島となっている。つまりこれらの地域は、救急絆創膏と言えば『バンドエイド』という呼び名が定着するほど、以前からJ&Jが進出している地域であることを意味する。これだけ見ても、『バンドエイド』ブランドには、“都会に強い商品”という雰囲気を感じる。

ドラッグストアの救急絆創膏売り場で、大きな面積を占めるJ&Jの『バンドエイド』ブランド。

 このことは、実は『日経POS EYES』のデータからも読み取ることができる。例えば、直近の12ヶ月(2020.3~2021.2)の日経収集店舗・全スーパーのPOSデータから大分類「家庭医療用品」の中の小分類「救急ばんそうこう」カテゴリーで検索すると、メーカー別の全国での金額トップシェアはJ&Jだが、地域別に細かく見ると、先のマップ情報と重なるかのように、首都圏、中京、近畿、四国でJ&Jがトップになっている。そしていまや北海道と九州でもJ&Jはトップシェアとなっているのである。“都会に強い”イメージを考えると、『バンドエイド』ブランドは札幌と福岡にもしっかり食い込んだというところだろうか。

『バンドエイド』と売り場を二分するニチバンの『ケアリーヴ』ブランド。

 それに対し、これ以外のエリア、つまり東北、北陸、関東外郭、中国エリアでは、別の「救急絆創膏」ブランドがトップシェアを取っている。それが同データで全国での金額シェア第2位のニチバン株式会社(東京・文京区/以下ニチバン)の『ケアリーヴ』ブランドである。『バンドエイド』が大都市中心のエリアに強いイメージだとすると、『ケアリーヴ』ブランドには“地方に強い”イメージが、どことなく感じられる。とはいえ、この2社だけで「救急絆創膏」の金額シェア62.5%(J&J35.7%、ニチバン26.8%)を占め、どの地域でも2社でつばぜり合いしている状況を見ると、どちらも現在では都会、地方にかかわらず、全国レベルの商品であることは間違いない事実。さてそれでは、今回はここで、『日経POS EYES』を使って、「救急絆創膏」の販売金額ランキングを見ていこう。

平均価格は『バンドエイド』がやや高め!

 上の表1は、『日経POS EYES』を使用し、2020.3~2021.2の12ヶ月間、日経が独自収集した全国スーパーのPOSデータから、「救急ばんそうこう」というカテゴリーで検索し、販売金額でトップ20の商品をランキングした表である。

 これを見ると、メーカー別でトップシェアのJ&J『バンドエイド』ブランドが、トップ20のうち10商品を占め、メーカー別シェア第2位のニチバン『ケアリーヴ』ブランドが、トップ20のうち7商品を占めていることがわかる。またメーカ別シェア第2位のニチバン『ケアリーヴ』ブランドが、ランキングの第1位と第2位を独占しているのも面白い現象である。

トップ20にランクインしている、J&J、ニチバンの主な商品。写真右の3商品と、左の3商品は、“種類が違う”商品群である(詳細は以下後述)。

 ここで、各商品の平均価格に注目して欲しいのだが、それぞれ用途や枚数等も異なるので、一概に比較はできないものの、全体的に『バンドエイド』の方が『ケアリーヴ』よりも高めの価格になっているのがわかるだろうか。店舗で「救急絆創膏」を買ったことのある人なら、この価格差をもっと実感できるかもしれない。これをデータで比較してみると、このランキング表のトップ20だけでなく全商品の元データから、J&J商品の平均価格は518.6円、ニチバン商品の平均単価は455.7円で、やはりニチバン商品よりも14%近くJ&J商品の方が高いことがわかる。都会の方が、地方に比べ、平均所得が高いことを考えると、平均価格の高いJ&Jが“都会に強く”、平均価格の安いニチバンが“地方に強い”という穿った見方もできなくもない。逆に、価格が高めのJ&Jが都会中心に販売を進めていると考えれば、なかなか合理的な販売戦略であるとも言えるだろう。

モイストヒーリング(湿潤療法)用の救急絆創膏とは?

 さて今度は、各商品の商品性に注目してみたい。同じ「救急ばんそうこう」という言葉で一括りにされているが、実はこのトップ20に並んでいる「救急絆創膏」は、大きく2種類に分けることができる。それをわかりやすくしたのが、上の(表2)である。表の中身は、(表1)と同一だが、色分けだけを変えてある。すなわちピンクの下地色の部分の商品は、「高性能絆創膏」と言うべき商品で、「モイストヒーリング(湿潤療法)」テクノロジーに基づいた「救急絆創膏」。一方、色のない白下地の商品はそれ以外の「一般の救急絆創膏」である。

 それでは、この「モイストヒーリング(湿潤療法)」とは何なのか。記者が子どもの頃には、転んで膝や手などに傷を作ると、水でよく洗って消毒し、あとは乾かしてかさぶたを作って治すのが普通だった。それに対し、「モイストヒーリング(湿潤療法)」というのは、あえて消毒せず、傷を乾かさず、傷口からの滲出液による自然治癒力を使った治療法のこと。この方法だと、痛みが少なく、傷跡が残りにくく、早く治せるのだそうである。人体が持つ治癒力を使うため、あえて消毒をせず、傷口からの滲出液を吸収し保湿する。それに適した「救急絆創膏」が、上の(表2)でピンクに塗った「高性能絆創膏」なのである。

 具体的には、こうした「高性能絆創膏」には、ハイドロコロイド材という特殊な素材が使用されており、傷口からの滲出液でこの素材が溶け、治療に適した湿潤環境に傷口を保つ働きがある。こうしたタイプの絆創膏を、2004年に初めて世に送り出したのがJ&Jで、『バンドエイド キズパワーパッド』シリーズがそれである。そしてそれに遅れること8年の2012年に、ニチバンが「モイストヒーリング(湿潤療法)」を取り入れた『ケアリーヴ 治す力』シリーズを発売したのだ。

J&Jの『キズパワーパッド』の商品説明コーナーには、「モイストヒーリング」について詳しく説明がある

 もう一度(表2)に戻ろう。トップ20にランクインしているピンク色部分の「モイストリーリング(湿潤療法)」対応の救急絆創膏は8商品あるが、何とその8商品のうち7商品がJ&Jの『バンドエイド キズパワーパッド』シリーズで、ニチバンの『ケアリーヴ 治す力』は1商品だけしかランクインしていない

「救急絆創膏」は、いつも血液や体液が流れている傷口に使うだけが用途ではないので、J&Jもニチバンも、「モイストヒーリング(湿潤療法)」用の救急絆創膏だけでなく、一般的な救急絆創膏も、様々なバリエーションで販売している。ところが、このランキング表を見ると、消費者は、傷を治す「モイストヒーリング(湿潤療法)」タイプは、J&Jを選び、一般用にはニチバンを選んで、使い分けているようにも見える。

ニチバンの『ケアリーヴ』のブランドサイトにも、モイストヒーリングの説明等が、かなり詳しく説明されている。

 この「モイストヒーリング(湿潤療法)」タイプの『バンドエイド キズパワーパッド』と『ケアリーヴ 治す力』は、実際に使用してみると、使用感がかなり異なる。絆創膏の内側に、ハイドロコロイド材を使用している点は同じだが、その外側を包むテープの部分の質感がまるで別物なのである。『バンドエイド』の方は、まるでロウで固めたかのようなツルリとした物質がハイドロコロイド材と一体になって包み込む感じなのに対し、『ケアリーヴ』の方は、一般的な『ケアリーヴ』と同様のしなやかで薄く伸縮性に富んだ「高密度ウレタン不織布」でハイドロコロイド材を傷に密着させる(下写真)。この使用感の違いは、おそらく好みが大きく分かれるように思われる。

ロウで固めたようなツルリとした『バンドエイド キズパワーパッド』(右の2つ)と、ザラザラでしなやかな『ケアリーヴ 治す力』(一番左)の質感の違いがわかるだろうか。

 ただ、もう少し時間が経過し、後発の『ケアリーヴ 治す力』が「モイストヒーリング(湿潤療法)」用であることの認知度がもう少し向上すれば、『バンドエイド キズパワーパッド』との差が、徐々に縮まっていくのではないかという気もする。というのは、これまで長く『ケアリーヴ』を実際に使用してきた記者は、その絆創膏としての品質を高く評価しているからである。

この両者、テープの質感だけでなく、形もこのように異なる。実際の使用感は、ぜひご自分で試してみて欲しい。

特にあの『ケアリーヴ』独特の「高密度ウレタン不織布」というテープ素材は、皮膚と一体化して、本当に使用感が素晴らしい。どんな場所に貼っても、伸縮性に富んでいるため、しわにならず、ピチッと貼ることができる。しかも剥がれにくい。一般的な救急絆創膏ではあるが、『ケアリーヴ』ブランドがランキングの第1位、第2位を独占しているのは、おそらくそうした品質の高さへの評価もあるのではないだろうか。それに比べると、第5位になっている一般的なJ&Jの救急絆創膏『バンドエイド スタンダード 肌色』は、テープの素材感とか色、さらに貼ってからの使用感が“一昔前”の絆創膏という感じが否めない。

ランキング第5位の『バンドエイド スタンダード 肌色』。いわゆる一般的な救急絆創膏で、先進の「モイストヒーリング」タイプに比べ、こちらの商品にはどことなくレトロ感が漂う。

 このようなわけで、今後、『ケアリーヴ 治す力』が、どういう動きを見せるのかは、時間をかけて継続的に注目していきたいと思う。冒頭のマップでは、「救急絆創膏」のことを『バンドエイド』と呼ぶ地域はあるが、『ケアリーヴ』と呼ぶ地域はまだ存在しない。そういう地域が出現するまでには、まだしばらく時間がかかるのかもしれない。(写真・文/渡辺 穣)

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渡辺 穣

複数の雑誌のデスク・編集長等を経てフリーライター/エディター。主にビジネス/経済系の著書・記事多数。一橋大学法学部卒。八ヶ岳山麓に移住して20年以上。趣味は、スキー、ゴルフ、ピアノ、焚き火、ドライブ。山と海と酒とモーツァルトを愛する。札幌生まれ。

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