[第43回]この1年間に売れた「生冷やし中華そば」商品ランキング!第3位「シマダヤ」、第1位「マルちゃん」の間に割って入ったメーカーは??
世の中には「桜前線」ならぬ「冷やし中華前線」なる言葉があるらしい。なんでも「1日の最高気温の7日間平均が20℃を超えてくると、人は冷やし中華が無性に食べたくなる」のだそうだ。その真偽はともかく、今の季節は、桜ならば見頃、冷やし中華ならば、まさに食べ頃の季節と言えるだろう。今回のテーマは「生冷やし中華そば」である。
季節商品である「生冷やし中華そば」だが、さきほどの「冷やし中華前線」が日本列島を通過する時期は、沖縄が3月、その後4月の九州から北上を開始し、5月には本州を通り抜け、北海道に至るのは6月になるらしい。このことを『日経POS情報POS EYES』を使い、販売金額から検証してみると下のグラフのような結果が得られた。
これは昨年6月から今年5月までの、「生冷やし中華そば」の毎月の販売金額(千人当り金額)の推移をグラフ化したもの。これを見ると、「生冷やし中華そば」の売上げは、春3月から増え始め、6月~8月にピークを迎え、9月でほぼ店じまい。10月から2月は“冬眠状態”になっていることがわかる。これは3月の沖縄からスタートした「冷やし中華前線」が4,5月と日本列島を北上するのとピタリと一致する。
このように、あまりにもハッキリとした季節性商品であるため、今回の「販売金額ランキング表」を作成するためのデータとしては、直近1ヶ月や3ヶ月、6ヶ月を使用するのは不正確だと考え、今回は、上のグラフの注意書き同様に、昨年6月から今年5月までの1年間のPOSデータを使って、小分類「生冷やし中華そば」の売れ筋TOP20を出してみた。その表が下の(表1)である。
割高でも売れてる第2位の商品の正体とは?
第2位の商品名を“黒塗り”しているのは、不都合な真実を隠蔽するためではない。この場所にどんな商品がランクインしているのか、考えてみて欲しいだけのことである。TOP20のうち、7商品は東洋水産株式会社(東京・港区)の商品で、表では薄い赤色を塗っている。メーカー別のシェアでも圧倒的なトップだ。そしてそれに次ぐのが、表の薄い緑色の部分=シマダヤ株式会社(東京・渋谷区)の商品で、TOP20のうち4商品を占める。あとは、メーカーとしては日清食品チルド株式会社(東京・新宿区)が有名なところ。このあたりのメーカーが上位に来ることは、多くの人が想像できるだろう。特に上位2社の東洋水産の『マルちゃん』ブランドやシマダヤの生麺商品は、誰にもおなじみの商品だろう。ところが、その2社の間に割り込んで売れている第2位の商品があるのだ。それが下の写真の商品である。
好きな人ならすぐに分かるハズ。これは「冷やし中華」ではなく「冷麺」である。そして日本で冷麺と言えば、岩手県の盛岡の冷麺である。本場・韓国の冷麺にも負けない麺のコシの強さ、そしてスープの辛味、さっぱりした後味や歯応え。その盛岡の冷麺を、チルドタイプの生麺で再現したのが、第2位の商品なのである。それでは黒塗りを落とした“完全な”(表1)をお見せしよう。
第2位の正解は、『戸田久 北緯40度 もりおか冷麺 生 スープ付』である。メーカーは株式会社戸田久(とだきゅう)(岩手県二戸郡)。地元の名産、盛岡冷麺・盛岡じゃじゃ麺・南部味そばなどを製造・販売する、生麺の専門メーカーだ。この商品は、(表1)には書かれてないが、「2食入り」である。平均価格は、他の商品よりも結構高い。ちなみに、同じ生麺商品でも、焼きそばは3食入りが当たり前なのに対し、「生冷やし中華そば」は2食入りが多いのが面白い。表の20商品でも、3食入りは4商品しかない。そこで、各商品の1食当たりの平均価格を計算すると、この『戸田久 北緯40度 もりおか冷麺 生 スープ付』は292.8円÷2で、146.4円。それに比べ、第6位の『シマダヤ 本生 冷し中華 醤油味 110G×3』は3食入りで181.8円なので、1食当たりわずか60.6円なのである。実に約2.4倍もの差があるのだ。しかし、この価格を高いと感じさせないだけの品質が、この『戸田久 北緯40度 もりおか冷麺 生 スープ付』にはある。だからこそ売れているのだろう。
夏場に集中する大手と冬場にも売る戸田久!?
さらに『戸田久 北緯40度 もりおか冷麺 生 スープ付』には、まだ驚くべきことがある。表の一番右端の「カバー率」が断然トップなのである。今回、記者は生冷やし中華そばを求めて9つのスーパーを巡り歩いてみたが、どこに店舗にも、この『戸田久 北緯40度 もりおか冷麺 生 スープ付』は置いてあった。それも店によっては、かなり目立つ形で、大量に陳列されていたのである(下写真)。
そこで、今度は(表1)を、カバー率の高い順に並べ替えてみたのが、下の(表2)である。
これを見ると、カバー率第1位の『戸田久 北緯40度 もりおか冷麺 生 スープ付』の下に、東洋水産の「醤油だれ」「ごまだれ」、シマダヤの「醤油だれ」「ごまだれ」ときれいに並んでいる。
その一方で、(表1)のランキングでは第4位に入っている『寿がきや 冷しラーメン 3食 330G』(下写真)という商品は、結局、記者は今回一度も目にすることが出来なかった。カバー率を見ると、何と3.8%でTOP20商品の最下位なのである。このメーカー、寿がきや食品株式会社は愛知県豊明市に本社を置く、麺や調味料などの加工食品メーカーで、地元愛知県近辺の中京地区では圧倒的に強いシェアを持つ。(表1)のデータを地域別に見てみると、この寿がきや食品は、中京地区ではシェア42.7%でダントツだ。地域を重点的に攻めるからこそ、全国データではカバー率3.8%という数字になってしまうのだろう。
カバー率を語る際には、もう1つ、気を付けなければいけないことがある。それは冒頭に書いたように、この「生冷やし中華そば」という商品は、典型的な季節商品であるということ。もう一度、グラフを掲載しよう。
このように、10月~翌2月までの冬の季節は、もうほとんど売上げが立たないほど、夏に偏った市場なのである。ここまで売上げが落ちるのは、この時期は、メーカーほとんど出荷しないということだろう。つまり、10月~2月に出荷しないメーカーの年間カバー率は、均されてかなり低く出ている可能性があるということだ。
さらに、面白いことに、この年間の月ごとのメーカー別シェアのトップを見ると、3月~9月の夏の時期は東洋水産がトップなのに対し、10月~2月の冬の時期は戸田久がトップなのである。おそらく、大手の東洋水産、シマダヤ、日清チルドなどが、夏場に集中的に「生冷やし中華そば」を売り、冬場は出荷を控えるのに対し、戸田久は、量は少なくなったとしても、年間通して出荷している可能性があるということだ。今年の冬、『戸田久 北緯40度 もりおか冷麺 生 スープ付』がスーパーの店頭にあるか、チェックしてみたい。
“サッポロ冷やし”をPBで売る“麺自慢”の菊水!
さてもう一度、(表1)のデータに戻ろう。実はこのデータで、メーカー別シェアを見ると、東洋水産、シマダヤ、日清チルドに続き、4位は戸田久、そして5位に菊水というメーカーが入ってくる。商品で言うと、第11位、第17位が菊水の商品である。この株式会社菊水は北海道江別市の麺メーカーで、やはり地元北海道ではシェア66.3%と圧倒的強さを誇っている。しかしこの菊水、意外にも四国や九州でも、比較的高いシェアを持っているのも面白い。
また、菊水の商品も、前述した寿がきやの商品同様、今回の売り場巡りでは見つけることができなかったが、その代わり、菊水がPBで製造している商品を見つけることができた。下の写真の商品で、これはAJS(オール日本スーパーマーケット協会グループ)のPBで、「くらし良好」というブランド名を聞けば、馴染みがあるのではないだろうか。この商品は、多くのスーパーの売り場で陳列されていた。
北海道のメーカーだけに、やはりラーメンには「サッポロ」ブランドが使用されている。また醤油味にレモン風味が添えられているのも、この商品の特長だ。実は、この菊水の「生冷やし中華そば」は、この「くらし良好」以外にも、大手コンビニエンスチェーンのPBでも確認できた。美味しいことで評判の高い冷やし中華である。
今回は誰でも知ってる大手の「生冷やし中華そば」ではなく、少し変わり種の商品の話を中心にしてきたが、最後にもう1つ、『戸田久 北緯40度 もりおか冷麺 生 スープ付』の魅力をご紹介しよう。今回、購入した商品はすべて調理して食べてみたのだが、麺のゆで時間が、この『戸田久 北緯40度 もりおか冷麺 生 スープ付』だけは、わずか1分で済むのである。他はだいたい3分~3分半かかる。熱い夏は、沸騰したお湯を使う時間はできるだけ短くしたいもの。この1分と3分半の差は、思いのほか大きな差ではないかと記者は感じているのだが、いかがだろうか。(写真・文/渡辺 穣)
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