[第50回]ディート主流の「虫よけスプレー」だが、メーカーに姿勢の違いが!「ディート」中心のアース製薬、「イカリジン」中心の金鳥。あなたはどう選ぶ?
「●●の夏、日本の夏」という殺虫剤メーカーのCMがかつてあったが、今まさに日本は夏。蚊の季節である。蚊にさされると痒いだけでなく、まれではあるが伝染病にかかるリスクもある。日本脳炎だのデング熱だの、この季節になると「今年の感染状況」も話題にのぼるのは、それらは蚊が媒介する伝染病だからだ。そこで外出時には、「虫よけスプレー」の登場となる。今回のテーマは「虫よけスプレー」だ。
記者は使わないで済む薬品は、できるだけ使わない主義である。もしどうしても使う場合は、なるべく身体に優しいものを使う。だから普段「虫よけスプレー」は全く使わない。「虫よけ」であれ「殺虫剤」であれ、虫を遠ざけ、ダメージを与える薬品が、人体に悪くないわけがない。これが常識的な判断だと思えるからである。記者が使うのは、せいぜい“天然除虫菊由来の蚊取り線香”くらいのものである。
ディート、イカリジンの違いだけは見極めて!
「虫よけスプレー」は、害虫が忌避する薬物なので「害虫忌避剤」とも言われ、その有効成分の主流は「ディート」と呼ばれる物質である。これはアメリカ陸軍が、ジャングル戦の経験から開発したという代物。それだけでも、使いたくないと感じる人もいるだろうし、実際、あまり使いたくない性質をもった物質であることには間違いない。
それゆえ、この「ディート」を使った「虫よけスプレー」は、6ヶ月以下の乳児への使用禁止、12歳未満の小児に使うには大人の監督下で回数制限がある。また衣類に噴霧すると、材質によっては変質したり、プラスチックを溶かす等々、注意事項満載(上写真参照)なのだ。だから、最近では、「ディート・フリー(DF)」という「ディート」を使用しないことを売りにする製品も登場するようになってきたのも事実。特に小さな子ども用、肌をいたわる女性用の商品には「ディート・フリー」の製品が多い。
この「ディート」に対し、平成の世になってから後発でドイツで開発されたのが、害虫忌避剤「イカリジン」である。主に、蚊やアブ、ブヨ、マダニに対する効果があり、ディート同等の忌避力があるだけでなく、ディートのような刺激性もなく、特有の嫌な臭いもしない。だから小児の使用にも制限がなく、衣類の上から使用しても繊維が変質したり、プラスティックが溶けたりするようなこともない。ディートに対して、こんないいことだらけの「イカリジン」が登場したにもかかわらず、相変わらず、「大人が使うならディートがおすすめ」などと平気で言う専門家も実は少なくない。しかもこのあとデータとともにご紹介するが、やはり今でも「虫よけスプレー」の主流商品は「ディート」成分のもののようである。記者にはそれが不思議でならない。
身体に影響のある薬品だから自己責任で選ぼう!
こうした薬品の販売動向には政治が大きく関与しているということは、知る人ぞ知る事実である。国が許認可し、国民が安心して使用し、その結果薬害が起きて国家賠償にまで至ったケースだけでも一体どれくらいの件数があるのか。時の政府が何らかの都合や事情から、「売る」と決めれば売られ、人体の安全は後回しにされる。そして国は極力、因果関係を否定する。これがこの国の常ではないか。
例えば、今世界では、その発がん性ゆえに多くの国で発売禁止になっている除草剤がある。事実すでにアメリカでは、その除草剤のためにメーカーが賠償責任を問われ、天文学的な賠償金を支払うハメになっているのだが、日本ではその除草剤がホームセンター等で、山のように売られている現実がある(上写真)。まるで世界中で売れなくなった分を、あたかも我が国ですべて引き受けているかのようにも見える。テレビでも、そうした世界の状況などはほとんど放送されない。買う人の多くも、そのような現実を知らない。ネットで自分で情報を収集することが必要となる(この件は例えば、このニュースが比較的新しい)。なぜそのような製品を売ることを我が国は許可するのか、そのあたりの話は、高度に政治的な話なので、ここではしない。ともあれ奇しくも現政権が「まず自助」と言っているとおり、薬物から自分の身を守るのは、結局自分しかいないのである。国を盲目的に信じるのは危険で、自分を信じ、自分で情報収集し、自分の身を守るしかないのだ。
少々話が逸れたが、今回は先述したような「ディート」や後発の「イカリジン」、さらにもっとも身体に優しい「天然由来のハーブ精油など」の成分に注目しながら、「虫よけスプレー」の販売状況を見ていきたいと思う。今回もいつものように『日経POS情報POS EYES』を使って、さっそく調査開始である。
上位4社の明確な“姿勢の違い”に注目!
下の(表1)は、日本経済新聞社が、2020年7月から2021年6月までの1年間に、全国のスーパーから独自収集したPOSデータを使い、商品分類「虫よけスプレー」で検索し、その販売金額によりランキングTOP20をまとめたものである。順位は「金額シェア」により決め、同値の場合は「千人当り金額」(表には表示していない)の多寡により、さらにそれも同値の場合には、同順位として表示している。なので、(表1)には17位が4商品並ぶこととなった。また、(表1)には『日経POS情報POS EYES』からの情報に加えて、一番右に「有効成分」という欄を設け、先述した“虫よけ成分”の種類と濃度を調べて掲載した。
表の色分けは、メーカー別になっているが、一見して赤のアース製薬株式会社(東京・千代田区、以下アース製薬)が多いことがわかるだろう。このデータをメーカー別に出力しても、案の定、シェアトップはアース製薬で、以下、フマキラー株式会社(東京・千代田区、以下フマキラー)、大日本除虫菊株式会社(大阪市西区、以下金鳥)、ジョンソン株式会社(横浜市西区、以下ジョンソン)と上位4社が並ぶ。
さて、先に説明した成分との関係を見てみよう。TOP20の20商品のうち、なんと15商品の有効成分が「ディート」で、より安全な「イカリジン」はわずか2商品のみ。そうした殺虫成分が全く入ってないものや、天然ハーブオイルを使用した商品は3商品である。つまり、なぜかやはり「ディート」成分の商品が主流になっている。
上位4社との関係で見ると、アース製薬とジョンソンはランクインしている商品のすべてが、「ディート」成分のものであるが、フマキラーはランクイン3商品のうち2商品が「ディート」、1商品が「イカリジン」である。また金鳥はランクイン3商品がすべてディートではない。さらに、ディート以外の5商品のうち、4商品は子ども用を想定した商品(うち3商品はスプレーではなくシールや手首に巻くリング)だが、唯一第11位の『金鳥 虫よけキンチョールDF パウダーフリー 無香料 200ML』(上写真)だけが、大人使用を想定したディート・フリー(DF)商品となっている。
そこで各メーカーのホームページから製品情報を調べてみると、上位4社のうち、金鳥は「人体用虫よけスプレー」の大多数の商品で、有効成分に「イカリジン」を使用していることがわかった。逆に、アース製薬には「イカリジン」を使用した商品はなく、『アース はじめてのサラテクト プレミアム0 やさしいミスト 200ML』という子ども用の商品にさえ「ディート」を使用している。確かに「『イカリジン』では効かない虫にも効く」というアースの謳い文句も理解はできるが、日常生活での虫よけ効果を求めるなら、イカリジンで十分だとも考えられる。ジョンソンも、「虫よけスプレー」はすべて「ディート」を使用しているが、アース製薬の商品よりは、その濃度は低めである(下写真)。フマキラーは、「ディート」「イカリジン」「天然由来成分」すべての商品を揃えているが、「イカリジン」を使った商品が比較的多く、それを主流にしている(あるいはしようとしている)ように思える。こうしたメーカーの姿勢の違いを消費者はきちんと見極めて欲しい。
《まとめると・・・》
・ヤマビルとか、ツツガムシ、ナンキンムシなど、日常生活というよりも登山やアウトドアでの幅広い虫よけ効果を考えるなら「ディート」
・日常生活で蚊やブヨ、アブ、マダニなどからの虫よけ効果なら「イカリジン」
・化学物質が嫌な人、赤ちゃんや幼児向けなら「天然由来成分」
・メーカでは、一番「ディート」寄りがアース製薬、次がジョンソン、反対に、一番「イカリジン」寄りが金鳥、次がフマキラー
ということになるのだろうが、記者としては、せいぜい「イカリジン」で十分、できれば「天然由来成分」がいい。そういうわけで、上位4社のメーカーなら、金鳥かフマキラーということになるが、冒頭に書いたとおり、記者はせいぜい“天然除虫菊由来の蚊取り線香”しか使わないので、やはり日本の夏は「●●の夏」で決まり!ということになってしまうのだ。(写真・文/渡辺 穣)
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