[第67回]「レトルトシチュー」はハウスと伊藤ハムが僅差で“つばぜり合い”!全国でクリームシチューを売るハウスに対し、伊藤ハムは都会をビーフシチューで攻める!
秋深まる10月。だんだんと温かい料理が恋しくなる季節である。というわけで今回は「シチュー」市場を見ていきたいと思う。とはいえ普通にやると、シチューやカレーの販売状況は、誰しもが予想できると思うのだが、ハウス食品株式会社(東京・千代田区、以下ハウス)の独壇場となってしまう。そこで今回は、一工夫して「レトルトシチュー」をテーマとすることにした。
その一工夫についてだが、何も特別なことをしたわけではない。『日経POS情報POS EYES』の商品分類ごとのデータをいろいろと見比べて、なるべく“ハウス一色にならない分類”、なおかつ“動きのある分類”を探しただけのことである。そのプロセスで、いろいろと面白いデータを拾えたので、以下順を追って紹介しよう。
「カレー」は「シチュー・ハヤシ」の約3倍の市場規模を持つ!
まず大きく分けて、カレーとシチュー、どちらがどのくらい売れているのか。『日経POS情報POS EYES』で、大分類の「カレー」と「シチュー・ハヤシ」の比較をしたのである。なお以下、本稿で使用するデータはすべて、昨年9月から今年8月までの1年間で、日本経済新聞社が全国のスーパーから独自に収集したものである。
この期間の販売金額シェアを比べると、「カレー」が76.2%なのに対し、「シチュー・ハヤシ」が23.8%と大差でカレーが売れている。ざっくりと「カレー」が全体の4分の3、「シチュー・ハヤシ」は全体の4分の1である。「シチュー・ハヤシ」市場は、「カレー」市場の約3分の1程度の規模しかないのである。
「レトルトシチュー」だけが過去5年で急増している!
次に、その「カレー」の3分の1の市場である「シチュー・ハヤシ」カテゴリーの中の小分類の状態を調べてみた結果が、下の(表1)である。
この表を見ると、7つある小分類の中には大きく分けて「シチュー」と「ハヤシ・ハッシュドビーフ」とがあるのだが、どちらも“レトルトよりもルーが売れている”ことがわかる。その点、「カレー」の場合は、いまや“レトルトがルーを追い越している”が、「シチュー・ハヤシ」の分野では、レトルトが合わないのか、レトルト化が遅れているのか、いずれにせよルーがまだまだ強いのである。
そこで、この表1の比較を、今度は5年前の2016年9月からの1年間のデータでも同様に調べてみたところ、「レトルトシチュー」の金額シェアだけが、3.9%から9.1%へと、約2.3倍も急増していたのである。ちなみに同じレトルトでも、「ハヤシ・ハッシュドビーフ」の方は10.5%から10.1%とむしろシェアを減らしている。
このようなわけで、今回は、今販売が急増している「レトルトシチュー」を取り上げる運びとなったのである。とはいえ、既述のとおり「カレー」の3分の1の市場規模の中の、さらにその9.1%(表2の金額シェア)の市場規模だということは、売り場のビジュアルを想像すると、例えばスーパーで、ルーもレトルトも合わせたカレー売り場面積のざっくりと30分の1以下しか「レトルトシチュー」の売り場面積がないと思えばほぼ間違いない(上写真参照)ということになる。そう考えると「入手が難しそうな商品だ」などと思いつつ、実際に売り場に足を運んでみた結果は・・・・。
「!!!」。売り場に商品が1つしか「ない」!
ここでいつものようにランキング表を作成した。データは先述したとおり、直近1年間の同じデータである。このデータを小分類「レトルトシチュー」カテゴリーで検索し、販売金額のTOP20をまとめたのが、下の(表2)である。
メーカー別に見ると、販売金額シェア1位はやはりハウスなのだが、第2位の伊藤ハム株式会社(兵庫県西宮市、以下伊藤ハム)とは僅差のつばぜり合いを展開している。そして第3位に自社開発商品(PB)、第4位に株式会社中村屋(東京・新宿区、以下中村屋)と続く。(表2)で色を着けているのは、PB以外のシェア上位の3社の商品である。
表のTOP20の数値を見比べただけでも、ハウスと伊藤ハムの“接戦”ぶりがうかがえる。例えば、第1位と第4位の伊藤ハムの商品の金額シェアを合計すると27.6%であるのに対し、第2位と第3位のハウスの商品の金額シェアの合計は26.1%。1.5ポイント差で伊藤ハムが勝っているが、さらにハウスの金額シェアに第8位と第17位のハウス商品の金額シェアを加えると今度はハウスが28.3%となって、今度は0.7ポイント差でハウスが逆転する。
このように僅差のハウスと伊藤ハムの販売状況だが、表2の右端の「カバー率」の欄を見ると、ここに大きな違いを見ることができる。第2位、第3位のハウス商品のカバー率は、83.7%と41.0%なのに対し、第1位と第4位の伊藤ハム商品のカバー率は、わずか21.1%と12.3%に過ぎない。なんと4倍近い差があるのだ。それでも同程度売れているということは、「ハウスは全国の多くの店舗に展開しているのに対し、伊藤ハムは選別した店舗に重点的に展開している戦略をとっている」と想像できる。実際、伊藤ハムのシェアが高い地域は、首都圏、中京、近畿という、東京、名古屋、大阪の大都市圏である。となると、ひょっとしたら伊藤ハムの商品は、記者が住む八ヶ岳界隈のスーパーでは手に入らないかもしれない。
このような予備知識とランキング表を手に、いよいよ実際に売り場巡りをしてみた。いつものように近隣エリア(長野県の八ヶ岳界隈)で10店舗ほど見て回る。一番驚いたことは、「レトルトシチュー」は想像以上に売り場に商品がないことだった。最初に入った全国チェーンの大手スーパーには、カレー・シチュー売り場全体をくまなく見回しても、陳列されていたレトルトシチューはランキング第13位の『SB シチュー曜日 チーズクリーム レトルト 220G』(下写真)ただ1商品だけだったのである。前途多難の予感。
結局、10店舗回ってみて、一番多く置いてあった店舗でも、TOP20の商品のうち4商品だけ。それが第2位、第3位のハウス商品と、第5位、第6位の中村屋の商品だ(下写真)。結局、その4商品に、先の第13位のSBの商品を加えた、計5商品以外のTOP20ランクイン商品は見つけられなかったのである。しかも事前の予想通り、記者が住むエリアでは、第1位と第4位の伊藤ハムの商品の姿を全く見ることができなかったのである。
都会+ビーフシチューの伊藤ハムvs.万人受け+クリームシチューのハウス
ところで、このTOP20の商品をシチューの種類で分けてみると、20商品中半分の10商品が、ホワイトソースを使用した、いわゆるクリームシチューで、残りの半分の10商品がビーフシチューを中心とした赤茶色のシチューとなっている。特徴的なのは、伊藤ハムはクリームシチューを出していないこと。やはりハムメーカーであるということが、その理由の1つだろうが、ビーフシチューの高級感のあるイメージと、販売ルートを都会に絞った戦略を組み合わせた売り方はうなずけるのである。
それに対し、全国に広くまんべんなく売るハウスは、テレビCMなどからも、主力商品をクリームシチューにし、子どものいる家庭にも広く浸透させようとしている印象を受ける。そしてその両社の中間あたりに位置しているのが中村屋ということになるのかもしれない。
“長野の成城石井”?ツルヤにPBレトルトシチューが!
また今回、ほとんどの店舗でPB商品を見つけることができなかった。この連載ではおなじみの、大手流通系の「トップバリュ」や「CGC」、「みなさまのお墨付き」にも、「レトルトシチュー」の品揃えがなかったのである。その中にあって、ただ1店、PBの「レトルトシチュー」を置いている店があった。それが株式会社ツルヤ(長野県小諸市、以下ツルヤ)というスーパーである。
このツルヤというスーパー、全国では知られていないだろうが、長野県では最も有名なスーパーマーケットチェーンである。その特長は、高級感のある品質のいい品揃えと、豊富なPB開発にあり、明らかに近隣の他のスーパーとは一線を画す。東京・世田谷生活が長い記者から見ると、このツルヤは、あたかも“長野の成城石井”とも言うべき趣きのスーパーなのである。
そのツルヤに、PB商品のレトルト「ビーフシチュー」(上写真)があったのだ。売り場には商品説明があり、「化学調味料不使用、国産牛、信州産エリンギ使用」の「具材感のある大人のシチュー」と書かれている。この商品自体は、長野県でしか入手できないため、ここでの詳述は避けるが、この商品の製造元が株式会社アーデン(長野県小諸市、以下アーデン)というレトルト製品製造の専門会社で、この会社は、シチューに限らず、カレーやその他数多くのPB商品を全国レベルで提供している会社であることをご紹介しておきたい。今回も、「レトルトシチュー」はほとんど見かけなかったが、「レトルトカレー」のPB商品では、いくつもの商品に、このアーデン製造の商品を見かけた。そしてこのアーデン、実はきのこで有名なホクト株式会社(長野県長野市、以下ホクト)の子会社なのである。ツルヤのPB「ビーフシチュー」の原材料にも、エリンギやブナシメジといったキノコ類が入っているのは、このためなのだろうか。いずれにせよ、今回PB商品については、ツルヤ、アーデン、ホクトという、“長野連合”によるこのPBを1つ見つけただけだった。(写真・文/渡辺 穣)
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