[第68回]女性用の「洗顔フォーム」は、男性用の7倍売れる?! 混在する「せっけん」の要素と「化粧品」の要素。男性用にも「化粧品」の時代が来るのか?
今回は「洗顔フォーム」がテーマ。本稿ではあえて総合的に「洗顔フォーム」という単語を使用するが、『日経POS情報POS EYES』では、男性用は「男性用洗顔剤」とそのものズバリなのに対し、女性用は「女性用洗顔剤」ではなく「洗顔せっけん・フェイシャルソープ」である。このネーミングの違いから見ても、すでに“複雑怪奇”な予感がするのだ。
「洗顔フォーム」の販売状況を調べるために『日経POS情報POS EYES』にアクセスすると、どうやら商品分類の大分類「せっけん」カテゴリーの中にそれはあることがわかった。さっそく検索をかけ、その中の小分類に何があるかを調べた結果が下の(表1)だ。データは直近1年間(2020年10月~2021年9月)、日本経済新聞社が全国のスーパーから独自収集したものを使用。本稿では、以下、すべてこのデータを使用する。
女性用の販売金額上位は“桁違い”に高額である!
表を見ると、大分類「せっけん」の中に属する小分類は、大きく分けて、「顔用」「身体用」「手用」と、あとは「液体」「固体」「その他」といった具合に細分化されて8種類あるようだが、その中で男女が別になっているのは「顔用」だけである。具体的には、表の緑色の部分が「男性用洗顔剤」なのに対し、赤色の部分が女性用の「洗顔せっけん・フェイシャルソープ」となっている。そして、この両者、カテゴリーの名前同様、市場の性格も大きく異なるのである。
まず「金額シェア」で比べると、男性用の市場規模は、女性用のわずか7分の1程度しかない。そもそも女性用の「平均価格」は男性用の約2.5倍も高く、単純に「金額シェア」だけでは比較できないので、今度は「個数シェア」で比べると、男性用の市場規模は女性用の3分の1程度となる。つまり、仮にすべての女性が何らかの「洗顔フォーム」を使っているとすれば、男性は3人に1人しか「洗顔フォーム」を使っていないことになる。あるいは、男性が1つの「洗顔フォーム」を使うときに、女性は同時に3つの「洗顔フォーム」を使っているのか。おそらく実態は、その中間的な状況なのではないだろうか。
いずれにしても、「洗顔フォーム」市場は、どうやら男女別に見る必要がありそうである。またいつものように「販売金額ランキング」だけでは状況を見誤りそうなので、「販売個数ランキング」で比べてみることにする。その前に、まずいつものように男女一緒に販売金額ランキングを作成してみたのが、下の(表2)である。
表を見ると、ほぼ真っ赤な表の中に二筋だけ緑が混入している。赤は女性用の「洗顔せっけん・フェイシャルソープ」カテゴリーの商品、緑は男性用の「男性用洗顔剤」カテゴリーの商品である。予想通り、TOP20のうち18商品は女性用で占められている。「金額シェア」では約7倍もの規模の差があるのだから、これはやむを得ない。それよりも、この(表2)で注目して欲しいのは実は「平均価格」なのである。
まず赤の女性用から見てみよう。(表1)から女性用商品の平均価格は701.4円なのだが、例えば第1位の商品は平均の6倍も高い4219.2円なのだ。以下第2位は2500円台、第3位は4500円台・・・・。つまりここに登場する上位の商品の多くは、平均価格よりも文字通り“桁違い”に高いのである。同じように男性用を見てみると、男性用の第1位、つまり第16位の商品の平均価格は1985.6円で、(表1)の男性用商品の平均価格278.2円の7倍以上もする。その一方で男性用の第2位、つまり第19位の商品の価格は、ほぼ平均価格である。要するに、ランクインしている商品の価格差はモノ凄く大きいのである(上写真キャプション参照)。
やはり今回は「金額シェア」では消費の実態は語れないことを再度確認できたので、男女別に「個数シェア」によるランキング表を作成してみた。まず「男性用洗顔剤」の販売個数によるランキングTOP10が、下の(表3)である。
男性1位は花王。1つだけ価格が突出するバルクオム
表の色分けは、花王と花王以外を意味する。TOP10商品のうち花王商品が5商品。そしてTOP3商品(下写真)のメーカーは、第1位から花王株式会社(東京・中央区、以下花王)、株式会社マンダム(大阪市中央区、以下マンダム)、ロート製薬株式会社(大阪市生野区、以下ロート)の順に並ぶ。この順番は、「男性用洗顔剤」のメーカー別シェアと同じである。
商品名をよく見ると、第1位、第4位、第10位の花王の3商品だけが「詰替」用の商品であることがわかる。ボディシャンプーやハンドウォッシュでは当たり前になりつつある、中身を詰め替えて使用するポンプ式ボトルが、「洗顔フォーム」にも進出しているのだ。それをいち早く手掛けているのが花王だということなのであろう。
注目して欲しいのは、「順位」の右隣にある「販売金額順位」との比較である。これを見ると、販売個数の順位と販売金額の順位は、その“顔ぶれ”にほとんど違いがないことがわかる。ただ1つ、販売金額第1位の商品だけが見当たらないのだ。探してみると、この商品、第22位にようやく登場する。つまり販売個数が第22位の商品が、個数シェアがわずか1.2%にもかかわらず、販売金額では第1位になっているということだ。それだけこの商品だけが突出した価格設定になっているのである。その商品が『バルクオム ザフェイスウォッシュ 100G』(下写真)だ。
この株式会社バルクオム(東京・渋谷区、以下バルクオム)という会社は、2017年に設立された新進の男性化粧品メーカーで、WEBサイトによると「世界中の男性の魅力を引き出すブランド」を目指しているようである。記者は化粧品ブランドで魅力を引き出して欲しいとは全く思わないので、同社のターゲットには当たらないようである。
さて問題は、次の女性用「洗顔せっけん・フェイシャルソープ」の販売個数ランキングである。下の(表4)を見て欲しい。
女性用「洗顔フォーム」はせっけんと化粧品の中間的存在?
男性用同様、黄色で色分けしているのは花王商品である。女性用もメーカー別の販売金額シェアでは花王がトップである。そして第1位から株式会社資生堂(東京・中央区、以下資生堂)、花王、ロゼット株式会社(東京・品川区、以下ロゼット)とTOP3のメーカーが並ぶ(下写真)である。また花王商品には「詰替」用商品が3品あるところも男性用と同様である。ところが男性用のランキングと大きく異なるのが、販売個数順位と販売金額順位が大きく食い違っている点である。
(表4)を見ると、「販売個数」でも「販売金額」でもTOP10に入っている商品は、第1位、第3位、第5位のわずか3商品だけ。また「平均価格」を見ると、男性用よりは多少高いものの、すべてが300円台~500円台と安い。先に(表2)で見た、上位に4ケタ価格がズラリと並ぶランキングとはまるで別ジャンルの商品のランキングを見ているかのようである。
そしておそらく、これはある意味本当に“別ジャンル”の商品なのだろうと考えられる。つまり(表2)の上位に並ぶ“桁違い”に高い商品は、同じ「洗顔」という機能を持ってはいるものの、どちらかというと「化粧品」のジャンルであり、(表4)にランクインしている商品は文字通り「せっけん」のジャンルなのだろう。そう考えると、花王と資生堂は、そのどちらのジャンルでも売れている商品を作っているが、どちらかというと花王は「せっけん」寄りに、資生堂は「化粧品」寄りに軸足を置いているように見えてくるのである。
同じ視点で、再度、男性用商品を見ると、そのほとんどの商品が「せっけん」のジャンルにある中で、前出のバルクオムの商品だけが「化粧品」のジャンルに位置しているのである。ひょっとしたら、「男性用洗顔剤」の中に、初めて登場した「化粧品」ジャンルの商品がバルクオムなのかもしれない。
今回は「洗顔フォーム」というテーマで、あれこれと販売データを見てきたが、ここまでを簡単にまとめると、
・「洗顔フォーム」には、せっけんの要素と化粧品の要素が混在している。
・化粧品の要素が多い商品ほど高額で、それは女性用の商品に多い。
・一方、男性用商品は、せっけんの要素が多いが、化粧品の要素が多い商品も登場した。
ということになる。
さて、今後、要注目なのは、男性用商品の中で、化粧品要素の多い価格の高い商品がシェアを伸ばしてくるのかという点である。その点、記者は懐疑的なのだが、これからの動向をさらに注視していきたい。(写真・文/渡辺 穣)
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