[第64回]「香辛料」の販売金額ランキングを、「S&B」と「ハウス」抜きで作るとどうなるか? 第2位と第3位には老舗の世界的商品が! そして第1位は?
香辛料の香りには、どこか理性を破壊するような快楽の要素が含まれているように思える。そういう意味では、香辛料にはどこか麻薬にも似た“魔力”を感じるのだ。それが証拠に、かつてヨーロッパの強国は、香辛料を手に入れるために長い年月、戦争までやらかしていたのだ。今回のテーマは、その魅惑的な「香辛料」である。
一口に「香辛料」と言っても、実に多種多様である。日本人に欠かせないものだけでも、七味や一味、わさびもあれば、しょうがもある。こしょうやにんにく、とうがらしも無いと困るし、その他中華料理やカレーに使う各種スパイス類等々。そうしたものが『日経POS情報POS EYES』では、どういうカテゴリーに商品分類されているのか、まずは大分類「香辛料」カテゴリーで検索してみた。
上の(表1)は、日本経済新聞社が2020年9月から2021年8月までの1年間に全国のスーパーから独自に収集したPOSデータを、「香辛料」で検索し、販売金額により小分類別ランキングしたものである。見て分かるように、大分類「香辛料」の下には、なんと20種類もの小分類があり、その中で最も売れているのは「おろしショウガ」であることがわかる。以下「練りワサビ」、「おろしニンニク」と続くが、金額シェアを見ると、第6位までの各順位の差は最大でも1ポイントしか開いていない。接戦なのである。そして第6位と第7位の間は2.6ポイント差と少し開いて、またそれ以下は僅差で続いている。表の赤と青の色分けは、それを表すもので、つまり赤は上位グループ、青は下位グループといった意味合いである。
(表1)の上位グループは、ショウガ、ワサビ、ニンニク、カラシ、その他パウダースパイス、コショウということになるが、こうなると第5位の「その他パウダースパイス」が何かが気になる。そこでさらに調べてみると、この「その他パウダースパイス」の中身は、塩とコショウやハーブ等をミックスしたタイプのものや、ナツメグ、ターメリック、クミン、シナモン、タコシーズニング等、エスニックな香辛料が主なものであった。
さすが日本人。上位独占「わさび」「しょうが」「にんにく」「からし」
次は、さらにこの大分類「香辛料」で、(表1)と同じデータを使って、商品別の販売金額ランキングを出し、そのTOP20をまとめたのが下の(表2)である。
想像はしていたが、エスビー食品株式会社(東京・中央区、以下S&B)の占める割合はその想像以上だった。TOP20の20品目中11品目が同社の商品なのである。次いで、これもまた想像はしていたが、20品目中6品目が、ハウス食品株式会社(東京・千代田区、以下ハウス)の商品で占められており、S&B、ハウス両社の商品(表の赤と青の着色部分)だけで、TOP20のうち実に17商品を占めているのである。しかもその内容を見ると、ほとんどが、「わさび」「しょうが」「にんにく」「からし」で、チューブに入ったその姿(上写真)は、誰もが想像できるものだろう。せっかくのランキングも、この結果では、当たり前過ぎて、あまり面白味がないうえに、そもそも今さら、S&Bやハウスのわさびやからしについて書くこともないだろう。
そこで、今回は、この(表2)のランキングデータから、あえてS&Bとハウスの商品を外してランキングを作ることにしてみた。この2社が抜けると、一体、何が売れているのか。読者の皆さんも、これなら興味が沸いてくるのではないだろうか。というわけで、さっそく(表2)のランキングから手作業で、S&Bとハウスの商品を取り除いて、ランキングTOP10を作ったものが下の(表3)である。
S&B、ハウス抜きだと意外!?な商品がトップに!
S&Bとハウスを除いてみると、「香辛料」は本当にこの2社にどれだけ“独占”されていたのかがよくわかる。実際、データで見ても、「香辛料」市場のザックリ4分の3は、この両社の商品なのである。(表3)に登場するメーカーやブランドを見ると、第1位の株式会社桃屋(東京・中央区、以下桃屋)はさすがに誰でも知っているだろうが、第2位以下のメーカー名はご存じだろうか。個人的には、第3位の『マイユ』ブランド、第5位のフンドーキン醤油株式会社(大分県白杵市)は知っているが、残りの7社はほとんど聞いたことがない名前である。
「香辛料」の種類で見ると、第1位はラー油、第2位はタバスコ、第3位はマスタード、・・・・と、(表2)にランクインしている香辛料とはだいぶ様相を異にする。果たしてこの10商品、あなたは幾つ買って使用したことがあるだろうか。今回もいつもと同様、あちこちのスーパーの売り場を巡ってみたが、同じ「香辛料」でも、店舗の中で、陳列されている棚はあちこちに散らばっており、商品を見つけるのに結構苦労した。例えば、第1位の桃屋のラー油は、ご飯にかけて食べる「ふりかけ」などと同じコーナーにあり、第2位のタバスコはパスタソースのコーナーだったり、あるいはソースのコーナーにあったり。さらに第4位のクレイジーソルトは、食塩のコーナーといった具合である。今回はこの(表3)の商品から、TOP3の3商品を簡単にご紹介したい。
《第3位 マイユ 種入りマスタード 103G》
まず第3位の『マイユ 種入りマスタード 103G』(上写真)だが、この『マイユ』というブランドは、割と見たことがある人は多いのではないだろうか。マスタードだけでなく、ピクルスやビネガーなどでも製造するフランスのメーカーである。この商品は、「種入りマスタード」で、俗に「ツブツブマスタード」とも呼ばれるもの。ウインナーソーセージやホットドッグなどに、よく使用されるタイプのマスタードだが、類似品はいろいろあるものの、食べる人に「やはりマイユじゃないと何か違う」と言わせる“元祖マスタード”的趣きのある商品だ。基本的にはからしであるが、それに白ワインと、マイユお得意のビネガー、塩、砂糖などが原材料として使用されている。
マイユがパリで創業したのが1747年というから、その歴史は270年を超す老舗である。記者も、このマスタードは普段よく食べているのだが、実は今回初めて気が付いたことがある。なんとこの商品を輸入している業者は、S&Bだったのである。せっかくS&Bとハウスを除いてランキングを作成したのに、ここにもS&Bが姿を現わすとは、さすがである。
《第2位 ピービーアイ タバスコ ペパーソース 60ML》
第2位の『ピービーアイ タバスコ ペパーソース 60ML』(上写真)も、マイユのマスタード同様、多くの人にとって食卓に欠かせないものだろう。タコスやピザ好きの記者には、タバスコソースのバリエーションは本当に必需品なのである。こちらは、アメリカに本社を置くマキルヘニー社の商品で、こちらも150年以上の歴史を持つ老舗。岩塩とビネガーと唐辛子(タバスコペッパー)だけから製造される製法は、この長い年月、変わっていないのだそうだ。
日本へはいくつもの業者が輸入・販売をしているが、今回の(表3)のデータに掲載されているのは、東京・港区の食品貿易会社、ピービーアイジャパン株式会社の販売商品のようである。
《第1位 桃屋 辛そうで辛くない少し辛いラー油 瓶 110G》
さて最後は第1位の『桃屋 辛そうで辛くない少し辛いラー油 瓶 110G』である。何とも“優柔不断な”長いネーミングの商品である。実は、記者はこの商品、食べたことがないのである。というわけで、今回、初めて封を開けて食べてみた。桃屋商品の中には「食べる調味料」というジャンルがあって、にんにくやしょうがをオイル漬けしたような商品がラインナップ(下写真)されている。この商品はその中の1つである。
封を開けると、たっぷり入ったラー油の中に、カリカリに揚げたにんにくが大量に入っている。商品名は「ラー油」だが、この商品はにんにくを食べるものである。このカリカリのにんにくを口に入れると、非常に香ばしいにんにくの風味が嬉しいが、商品名のとおり、辛さが“優柔不断”である。要するに辛くないのだ。辛くないのでラー油という感じが全くしないのである。
この商品、記者は上の写真のように卵掛けご飯に添えていただいたが、餃子につけたり、ラーメンや炒飯にかけてみたり、冷や奴や納豆、サラダにも合いそうである。ただし、にんにくなので、次の仕事を考えて、食べ過ぎないようしないといけない。(写真・文/渡辺 穣)
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